劇場公開日 1972年3月29日

約束(1972)のレビュー・感想・評価

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5.0女の本音が詰まっている映画だと思います

2021年12月16日
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鑑賞方法:VOD

これは本物の傑作です!
日本映画オールタイムベストの一角を占めて当然の作品です

岸惠子40歳
彼女の役蛍子は35歳だと劇中で分かります
なのに若く見せようとせずに、逆に45歳くらいに見せようと役作りしています
化粧気もなく、皺をワザと目立たせています
髪もおしゃれさは微塵もありません
全て監督の指示によるものと思います

萩原健一22歳
「太陽に吠えろ」に出演して役者としてもブレイクするのは本作の半年後の事です
彼の役の年齢は語られません
しかし彼の実年齢か、もしかしたらそれより若い歳で設定されているようです
子供ぽい表情を見せるように演出されています

冒頭はどこかの冬の海辺の公園
子供たちが遊んでいます
どうも放課後の学校帰りの時間帯のようです
冬の夕暮れは早く薄暗くなるのはもうすぐ
夏は海の家になると思しき小屋のベンチに主人公の蛍子は寒そうにうつむいて座っています

彼女の顔のアップが画面の左半分を占め、コバルトブルーの小屋の壁が右半分
その右半分の下部に「約束」とタイトルが品良くでます
そして彼女が目を上げた時、画面が変わり
冬の日本海沿いを走る急行列車からの光景となります

そこに音楽がかぶさります
まるでビットリオ・デ・シーカ監督作品の音楽のような哀愁と憂いをたっぷり含んだものです
素晴らしい劇伴です

荒れる日本海のすぐ脇を、ディーゼルの国鉄色の長い急行列車が雪の降りそうな薄暗い鉛色の曇天の中を走行します

短いトンネルに入ったり抜けたり
トンネルの中は真っ暗です
そこに白く出演者とスタッフの文字がでます
すぐトンネルを抜けて、一瞬線路脇に雪の残る光景が見えたと思ったらまたトンネルで真っ黒
するとまた次の文字がでる
それが幾度か繰り返されていくのです

もうこの段階で、私達の心は鷲掴みにされています
ラストシーンまで目が離せなくなっているのです

そこからは彼女の記憶の物語となり、ラストシーンで、また冒頭の公園にもどってきます

ラストシーンの微かなため息で私達はタイトルの意味と余韻を噛み締めているのです

子犬のように蛍子の後を、どこまでもついて歩く若い男

中盤で再開を約束した連れ込み宿で、宿の女将と御用聞きの男との僅かに性的な下品な軽口を聞いて心が変わり、部屋にはいって化粧をし髪を下ろし、その若い男を待つ蛍子

3時には必ず乗らないとならない急行列車が来る

もう若くない女
もう女と見られなくなるのもあと少し
時間がない
もうあきらめていたはずだった
でも、ふとしたことで知り合った男
もしかしたら女として扱ってくれるかも知れない
この機会を逃したら次はない
過去は知られたくはない
だが男だって何か訳のありそうだ
同じじゃないか
そう思ったらもう忘れられない

こうした女の本音がこの物語の中に濃縮されているのです
しかし結局はため息で終わるのです
そんな心象風景が日本海沿いの寒々しい光景に込められています

大部分のシーンを急行列車内が占めます
急行列車はどこまでも走り、長い女の人生を象徴しています
初老の女性監視官は世間とかそんなものを暗喩しています

冬の日本海沿い
雪に埋まるのはもうすぐ
それは刑務所に戻ることの暗喩でもあったのです

自分の為に泣いてくれる男
それが欲しかった
子犬のように、弟のように母性本能をくすぐってくれる男

結局ただ老いていくだけ
まるで刑務所に入るようなものだ

それが蛍子のため息なのでした
女の本音が詰まっている映画だと思います

蛇足
急行列車は、劇中で急行しらゆきと分かります
しかし劇中では実際と異なる映画用の設定となっています

本当の急行しらゆきは、金沢と青森を結んでいましたから、劇中のように名古屋には行きません
また、羽後駅は山形あたりの架空の駅ですが、急行しらゆきのダイヤからは上りも下りもかけ離れた時間に発着することになっていました
さらには劇中では夜行になって早朝名古屋駅着ということになっています
路線は当時すでに電化されていますが、実際の急行しらゆきも、本作の通り電化区間をディーゼル列車で運行していたそうです

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あき240

3.5逃げ場のない女と男の惹かれあう切なさを繊細に描く日本映画の佳作

2020年4月18日
PCから投稿
鑑賞方法:TV地上波

外国映画ばかり観ていた時期に鑑賞し、新鮮な感動を得ました。まるでフランス映画を観ているかの印象を持ったからです。岸恵子の上品な立ち振る舞いからは想像しにくい役柄と、テレビドラマ「傷だらけの天使」でファンになった萩原健一の初々しい演技が、日本映画ではなかなか味わえないものでした。石森史郎の脚本が素晴らしいと思います。

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Gustav