うたかたの恋(1936)

解説

オーストリアの皇儲ルドルフ、男爵令嬢マリイヴッセラの情死事件を描いたクロード・アネの小説をアナトール・リトヴァクが監督製作したもので、彼の出世作「最後の戦闘機」の脚色者ジョゼフ・ケッセルが脚色し、I・フォン・クーベが撮影台本を作成している。作曲は「最後の戦闘機」のアルテュール・オネガー、演奏はモーリス・ジョーベールが指揮している。撮影は「商船テナシチー」その他のアルマン・テイラールである。主演俳優は「運命の饗宴」のシャルル・ボワイエ、「禁男の家」「暁に帰る」「春信」「恋愛交叉点」「不良青年」のダニエル・ダリュー、外にコメディ・フランセーズ座のジャン・ドビュクール及びルドワの両名、尚「最後の戦闘機」のベルジュロン、マルト・レニエ、ヨランド・ラッフォン等である。

1936年製作/フランス
原題:Mayering

ストーリー

十九世紀が正に終わらんとしている頃である。ヨーロッパに最古の王統を誅るハブスブルグ家に於ては、因習と頑迷のみがその宮廷を支配し、廷臣貴族たちはオペラ、舞踏、遊戯にのみ、その日を送っていた、聡明闊達な皇儲ルドルフ大公は、ただ伝統のみに浸っているこの雰囲気に飽きたらず、折しも潮のように捲き起って来た社会主義運動に興味を抱き自由主義新聞社長セップスを友人とし、学生の社会主義運動に自らの身を投じていた。オーストリア国政の実権を握る宰相ターフェは自己の牙営を擁護するため、この運動に大弾圧を加え一味を尽く投獄する一方、皇儲の行動を封じようと、無理押しにベルギー皇女を妃として迎えしめたのであった。国と家のためとの名目の下に、一切を犠牲に供さしめられたルドルフ公は、その忽瞞のはけ口を酒と女に求めた爾来幾年、日夜に亘る酒宴がつづけられ、鬱勃たる彼の英気はただそれに依ってしびれ忘れさせられていた。一日彼は遊園地にその徒然を慰めていたとき不図男爵令嬢マリイ・ベッセエラと知り合った。彼女の清純さ、飾らぬ美しさは強くルドルフの心を惹き、彼は激しい恋に陥った。しかしこの秘められた恋もやがて宰相ターエフの知るところとなり、彼の卑劣な手段によって、マリイは維納から遠く離れたトリエストの伯母の許へ預けられることになった。この世に只一つ、彼に与えられた真実のものマリイとの恋を阻まれ、凡て希望を失ったルドルフは、以前にもまさる激しい酒宴によってその淋しさをまぎらわしていた。幸いマリイは六週間の後赦されて帰ってきたルドルフは如何なることがあっても再びマリイと別れまいと決心し、ローマ法王に離婚の請願をし、彼女を正式に妃として迎えることにした。しかしこの願いは却下され父フランツヨゼフ帝は厳として直ちにマリイと絶縁することを命じた。ルドルフ公は決意を固めた。彼は二十四時間の猶予を乞い、維納からはるかに離れた荘園マイアリングでマリイと許された最後の時をすごすことにした。荘園は深々と白雪に埋もれていた。残された十幾時間を二人は子供のように遊び戯れた。そしてマリイが昼の疲れに安らかな眠りに落ちるのを見届けた後、ルドルフは最後の準備にとりかかった。一切の整理を終えたとき何時しか暁が白々と訪れていた。轟然たる一発の銃声。続いてまた一発、老僕が何事かと馳せつけたとき、その美しい顔に何の苦痛の痕を見せず死んでいるマリイの骸の上に、自ら心臓を撃ち抜いたルドルフ公が折り重なって息絶えていた。一八八九年一月三十日のことである。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

2.5ピュアな恋愛が心中に至るまでを丁寧に描いた秀作。

2023年3月2日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

皇族者の情死という大変にスキャンダラスなマイヤーリンク事件の事は、ミュージカル「エリザベート」でうっすらとは知っていたが、この作品は、そういうスキャンダラスな面を味付け程度に留め、皇太子ルドルフが1人の人間として見られない苦悩と、唯一彼を地位と名誉関係なく愛した令嬢との盲目的な恋愛にウェイトを置いて、やがて心中に至るまでが、丁寧に描かれている。特に、互いの本当の身分が分かるバレエ鑑賞のシーンの舞台と離れた二人のオーバーラップは非常に映画的な見せ方で面白い。悲劇的なラストも見ようによっては腑に落ちるのは、あくまでも2人のピュアな恋愛から来るものだろう。ダニエル・ダリューの美しさもこの作品の見所。

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Y.タッカー
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