劇場公開日 2013年3月9日

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愛、アムール : 映画評論・批評

2013年2月26日更新

2013年3月9日よりBunkamuraル・シネマ、銀座テアトルシネマほかにてロードショー

深い余韻を残す、ハネケ「らしからぬ」終わらせ方と2人の名演

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ミヒャエル・ハネケは嫌いだ。作品のもつ力の強さに圧倒されつつも、見たことを後悔させるほど苦い後味にいつも辟易。舌を巻くほど怜悧(れいり)な頭脳の持ち主には違いないが、意地の悪さも相当なものだと思ってきた。しかし、そんなハネケが「愛」を描いたこの新作には、心底驚かされた。

パリの瀟洒(しょうしゃ)なアパルトマンで悠々自適な老後生活を送る、元音楽教師のおしどり夫婦、ジョルジュとアンヌ。そんなある日、妻のアンヌが発作を起こし、半身不随に。「病院に戻さないで」という妻の願いを聞き入れたジョルジュは、自分もまた老いた身ながら、献身的な在宅介護を続けることになる。

突発的なできごとに脅かされ、崩れていく人生。淡々とした日常描写の積み重ねから浮かび上がる、衝撃的な真実。少しの感傷も許さず、我々が見たくないものを見せ続けるという点でも、非常にハネケ的といえる。ところが、ここに表出される「愛」の描き方には、まったく皮肉なところがないのだ!

気高くチャーミングな人格がだんだんと病に冒されていく様をつぶさに演じるエマニュエル・リバ、そのことに耐え続けようとするジャン=ルイ・トランティニャン。監督の厳しい美学を汲み取り、要求に応えたふたりの演技が、深く、長い余韻を残す。この映画がハネケにとって個人的なものであることは明々白々。そのことと、ラストの「らしからぬ」終わらせ方に驚嘆する。冷血漢にはけっして撮れない映画である。

若林ゆり

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