劇場公開日 2012年10月13日

赤い季節 : インタビュー

2012年10月11日更新
衣装協力(アダム・キメル/問い合わせ エドストローム オフィス)
衣装協力(アダム・キメル/問い合わせ エドストローム オフィス)

11年の役者人生を経て振り返る、新井浩文の映画づくりとは

自らの未来とひとりの少年を守り抜くため、命をかける――映画「赤い季節」は、解散してなお、孤高の存在であるロックバンド「THEE MICHELLE GUN ELEPHANT」のチバユウスケによるソロプロジェクト「SNAKE ON THE BEACH」の楽曲「Teddy Boy」から着想を得て製作された。主人公・健は、血と暴力にまみれながら、生を求めもがく。11年の俳優人生のなか、いくたびも血を流し魂の慟哭を映像にきざみ続けてきた新井浩文。その瞳には何が映っているのだろうか。(取材・文・写真/編集部)

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幼いころに自分を残して亡くなった父親との確執を抱えながら、殺し屋を生業(なりわい)としてきた健。ささやかではあるがまっとうな暮らしを求め、殺し屋稼業から足を洗うことを決意するが、かつての先輩アキラが闇の世界に引き戻そうと健の日常を歪ませていく。そんななか、健のもとに両親を失った少年・剛が現れる。

「作品は脚本と監督とつくり上げるものなんです」と語る新井。今作で演じた不器用で真っ直ぐな男は、「最初、うちのイメージとは程遠いキャラクターに仕上がっていたんです。セリフも本当にクサいものが多くて。普通の人間だったら(こういう風に動くのでは?)という動きを能野(哲彦)監督に説明し、セリフも直していただきました」。画面のなかでは、「映画って非日常で現実ではないけれど、どこかで人間っぽさを大事にしていて。クサいセリフを言ってもそこに説得力はない。印象的なセリフもひとつかふたつでいいんですよ、薄くなっちゃうから」と生きた演技を追求する。

今作で監督デビューを果たした能野監督は、「俳優・新井浩文を格好良く撮りたい」という気持ちが強かった。新井は能野監督の思いに応えるため、ふだんはチェックしないというモニターを見ながら、細かく動きを確認したという。作品づくりのなかで新井が大切にしているものは、信頼関係だ。「能野さんに限らず初めてご一緒する監督は、信頼関係を築くというよりもうちが信頼するしかないですね。この監督と一緒にものをつくると決めたんですから、うちが『一方的に信頼する』でいいんです。やると決めた以上、ついていくのでどう料理していただいてもいいですよという気持ちです」。そのなかで、信頼関係が生まれる瞬間があり「出来上がった映画を最初に見たときに、良かったら信頼できるんです。出来上がったものを見てみないとわからない。信頼関係が生まれた監督とは、次回作のお話をいただいたときに脚本も読まずに『やります』となるんです」とそのきずなは何よりも強い。

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公開を控え、能野監督が「格好良さ」を突き詰めた「赤い季節」を振り返ってもらうと「自分自身まだ客観的に見ることができていないから判断できないけれど、うちはやりたいことをやらせてもらったし、能野さんがやりたいこともうちはやりました。(初監督だから)能野さんの格好良さはまだ世間に評価されていないけれど、お客さんが『格好良い』と言ってくれるんだったら、正解なんだと思える。見てくれた人の評価でわかることなんです」と反応を待つ。

今回、タッグを組んだ新井と能野監督は、映画と音楽という異なる世界で活躍してきた。しかし現場に入ってしまえば、これまで活動してきた舞台が映画業界であろうと、音楽業界であろうと関係ない。新井の一貫した姿勢は、若手ロックバンド「爆弾ジョニー」から参加し、キーパーソンとなる剛を演じた新居延遼明(にいのぶりょうめい)に対しても変わることはない。「遼明は本当に肝が据わっていて、能野さんが言うことを一生懸命やろうとしていた。現場では『新人だから』『他業種だから』という心配はありませんでした。誰にでも1回目というものがあって、監督次第でどうとでもなることをうちは体感しているから。うちも初めて撮影した映画『青い春』はいまだに言われるくらい。あれだって素人がやっているだけで、豊田(利晃)さんのおかげなんです」。

新井は、友人でもある俳優・松田龍平と主演した「青い春」を振り返り、「豊田監督はうちには厳しかった」と語る。しかし、豊田監督の厳しさの裏には役者への強い思いが込められていることを感じ取り、「1番厳しくされたけど、1番時間を割いてくれた」と笑顔をのぞかせる。「うち、芝居を全部やって『今のは気に入らないからもう1回』ってNGを出されるのがものすごく好きなんです。自分に時間を割いてくれるということは、自分のことをよく撮ろうという監督の意識の表れだから、『じゃあもう1回』って言われたら喜んでやるタイプですね。そういう監督と出会えるとうれしい」。たとえ全力でぶつかったカットだとしても、新井の思いは変わらない。「うちの全力はたかが知れていて、自分で全力と思い込んでいるだけ。監督が納得したものが本当の意味での全力で、うちの仕事はそこまで持っていくことです」と真しに向き合う。

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新井と言えば硬派なキャラクターだ。今作への出演の決め手も、豊田監督復帰作「蘇りの血」(2009)で出会った祭(MAZRI)の千葉広二プロデューサーの「主演やってくれないか」という一声で、「豊田さんの復帰作をやってくれた人からのお話なので、『絶対やる』という筋や義理といった話で決めました」と、とことん男らしい。

今年公開される作品も「赤い季節」を筆頭に、「莫逆家族 バクギャクファミーリア」(熊切和嘉監督)、「アウトレイジ ビヨンド」(北野武監督)と男臭い作品が並ぶ。新井をひきつけてやまない“男臭い映画”の魅力とはどこにあるのだろうか。「なんですかね。女の子を信用していないからじゃないですか(笑)? なにより、男同士の会話も酒の席でのケンカも、時間が経てば笑い話にできるから面白いんですよね。自分がいる環境が大きいのかな」と話す。

歯に衣着せぬ言葉で、俳優としての思いを語ってくれた新井。「うちは11年俳優をやっているけれど、カメラがどこを撮っていようが気にしたことがないんですよ。そのシーンの空気を手だけでも出せる自信があるから、うちがやることは同じなんですよね」と言葉の端々に、ものづくりへの自信と尊敬が感じられた。役者人生を振り返って「役と向き合う姿勢は変わっていない」と言い切った言葉には、画面を引き締める“新井浩文”の存在感がにじみ出ていた。

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