劇場公開日 2012年6月22日

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「戦争の本質」ネイビーシールズ supersilentさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0戦争の本質

2017年5月18日
iPhoneアプリから投稿

FPSゲームのようなアクションだけでドラマ性が希薄だとか、善悪の視点が固定的で米軍礼賛だとか、単なるプロパガンダ映画だとか、本当に頭の悪そうなコメント続出でびっくり。

戦争という殺し合いの現場に、見慣れた安っぽいドラマのカタストロフィーを期待されても困る。ドラマ性が希薄、または希薄に見えることこそが戦争の本質とも言えるからだ。それまで生きてきた時間や社会との関係性といった「それぞれの物語」が一切排除された、徹底的にドライな「殺戮の時間」、それこそが戦争の現場の本質であり、その意味で目先のドラマを追いかけて脱線することなく、あくまでもドキュメンタリーの手法に則り、ストイックなまでにその現場を創出することだけに集中した本作には特筆すべき点がある。備品やキャスト、作戦立案にいたるまで、軍事的整合性や説得力は娯楽映画の比ではない。

米軍礼賛という指摘については、確かに米軍が正義で、テロリストが悪であるという図式の中で描かれてはいる。ただそうだからといって、テロリストだけが悪く描かれていると感じてしまうのはあまりに純真すぎる。

正しいはずの米国が、なぜ世界中からテロの標的にされてしまうのか。自分たちが向き合っているものは何であるのか。その問いを、自分の命をかけている兵士一人一人が考えないはずはない。そして誰よりも考えているはずの兵士たちは、決してそんなことを口にしない。まさに、決して口にしないからこそリアリティーがあるのだ。何も言わずに淡々と作戦に参加する米兵を見て観る者は戸惑うのだ。正義とは何であるのか。

敵も味方も殺しあう。そして等しく死に向き合う。「描かれず」とも、彼や彼女の人生の背景には、敵味方の分け隔てなく、それぞれのかけがえのない人生があったことに想いを馳せる。それだけで十分アイロニーに満ちていると言えないだろうか。

いかにも悪そうな風貌をした男が、虫けらのように殺されたとしても、かっこいい米兵が英雄的な死を遂げたとしても、僕らは知っている。現実の世界は星の数ほどの「濃厚なドラマ」と、そのドラマが覆い隠された「ドライな現実」でできていることを。平和を思うとき最初に必要なのは、まず現実を知ることだ。本作がその一助になるのは明白である。

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