MY HOUSE インタビュー: 堤幸彦×坂口恭平 “家”から見る、現代社会の本当の幸せとは

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MY HOUSE

劇場公開日 2012年5月26日
2012年5月22日更新
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堤幸彦×坂口恭平 “家”から見る、現代社会の本当の幸せとは

ヒットメーカー・堤幸彦監督が、5年の歳月をかけこん身の思いで製作した本作は、「0円ハウス」で知られる坂口恭平氏が週刊誌に発表した、隅田川河川敷で、費用をかけずに建築した家に住みオリジナリティあふれる暮らしを営む路上生活者の記事をもとに企画された。これまでの娯楽作とは趣の変わった社会派の劇映画として“家”を通し、現代社会においての本当の幸せや自由とは何かを問いかける。(取材・文・写真/編集部)

名古屋の公園で廃材やブルーシートを駆使して設計した家を住居とする主人公・鈴本(いとうたかお)のモデルとなったのは、隅田川に住み、空き缶拾いを収入源としている鈴木さんという男性。知恵と工夫で0円で家を建て、廃棄バッテリーなどで必要最低限の生活インフラを無料で確保。食事や衛生面にはしっかりお金をかけ、近隣に住む仲間たちと助け合いながら暮らす。むろん質素ではあるが我々が想像する路上生活者のイメージを裏切る豊かな生活を送っている。

画像2 (C)2011「MY HOUSE」製作委員会 [拡大画像]

「トリック」、「SPEC」シリーズなどのエンタメ大作で知られる堤監督だが、青年期から常に社会への問題意識を持ち続けており、監督デビュー間もない90年にはオノ・ヨーコ主演でホームレスの生き方を描いた作品も発表している。ふたたび路上生活者に焦点を当てた本作への思い入れは深く、「もう50歳も半ばを過ぎたので、気持ちよく死ぬために、自分がずっと意識していることを作品にすべきだと思った」と話す。坂口氏が鈴木さんを取材した記事は、現在まとめられて書籍(『TOKYO 0円ハウス 0円生活』『隅田川のエジソン』)となっているが、堤監督は出版社よりも早く坂口氏にコンタクトをとった。

「記事を読んで、映画化にあたって無菌状態の主婦とエリートの道を進む中学生の姿がすぐに浮かびました」。劇中、公園に住む鈴本と仲間たちとは対照的に、一戸建てに住む裕福な家族が登場する。木村多江演じる主婦のトモコは、潔癖症で朝から晩までマスク姿で家の美化に余念がない。エリート中学生の息子のショータは成績優秀だが、子どもなりのストレスをためているようだ。まるで水を飲むように、糖質0のコーラ缶を何本も空けるショータ、空き缶をゴミに出すトモコ、そして空き缶を集める鈴本、食物連鎖の様に3者をつなぐ円環が出来上がっている。

「土地を所有したり、家を持っていることと彼ら(路上生活者)の間では何が違うのか。僕らは土地や家を所有することで、大変な労苦を背負うわけです。彼らにはそういうことはないが、暴力や権力、自然災害というリスクを背負う。トモコやショータも、僕が実際に見聞した話であり、決して変わった人たちではなく、身近にいる人間。両方がほぼ同時代、同じ地域に生きています」と、現代社会の一場面を切り取ったことを強調する。

画像3 (C)2011「MY HOUSE」製作委員会 [拡大画像]

堤監督のエンタメ作といえば、高度な映像処理と絶妙な音楽やセリフなど情報量の多いユニークな演出方法でファンを獲得してきたが、本作ではそのような作風を封印し、音楽なしのモノクロ映画として仕上げた。「色があると人間は考えていることで想像してしまうんです。ブルーのテントがあると、それはもしかしたらにおうんじゃないか、暑いんじゃないかと予断をしてしまう。そういうことをできるだけ排除したかったのです」。

建築を学んだ坂口氏は、学生時代から路上生活者の家と暮らしに興味を持ち、一軒一軒自ら足を運んで調査。各地の「0円ハウス」を集めた写真集が国内外で注目され、建築家以外に文筆家など多くの顔を持つ。現在は、震災の避難民受け入れのコミュニティを熊本で立ち上げ、新しい生き方を模索していく“新政府”を設立、初代内閣総理大臣に就任した。その傍ら、私塾も開くというすさまじいバイタリティとユニークなキャリアの持ち主だ。

「鈴木さんは『昼間飲まないでいつ飲むの?』と昼間から顔が赤いんですけど(笑)、四川大地震被災地の川近くの仮設住宅の建て方を心配したり、サラリーマンを見れば、『なんでみんな箱の中に向かってるの、あれじゃ窒息するだろう。今年は何人くらい自殺者いるの?』と」。自分の意思で現在の生活を選んだ鈴木さんの言葉を紹介する。

「鈴木さんの様に颯爽と生きるウソのない人間、了見を持っている人間を映像化して取り上げるべき」と考えていたので、映画化される確信が以前からあった。「でも僕の中では山下敦弘さんみたいな作風の監督さんからオファーがあると思っていたんです。堤監督から来て驚きました。本当に大丈夫なの? と。『20世紀少年』のような作品をイメージしていたので(笑)」

映画化にあたって、堤監督にリクエストしたことを聞いた。「脚本には何も言っていません。(主人公の住む)家は僕が書きたいということと、磁石を使って釘を拾うシーンは、敷地内では窃盗罪になるので外で拾うようにということをリクエストしました。それは鈴木さんを通して実際見たことだったので。あとはバッテリーの残量を確認するために、一度ショートさせるとか、ディテールにはこだわりました。“神は細部に宿る”と言いますしね」。建築家らしい答えが返ってきた。

「建築物は人の頭の脳内をぐさりと刺す力があるんです」と主張し、映画の中の建築物にも注目している。「『グーニーズ』のマイキーの家から、『ブレードランナー』、『地獄の黙示録』、『ガタカ』などを間に入れて『MY HOUSE』へ。これが僕の中の建築映画の系譜です」。本作ももちろん建築物を見せる映画として捉えている。

モデルとなった鈴木さんは、本作をまだ見ていないのだという。映画館に行くことを躊躇(ちゅうちょ)している節もあると坂口氏が明かすと、すかさず堤監督が「じゃ、キリンビール(本社ビル)の壁にぶちあてたら?」、「そうですね、パブリックビューイングで!」(坂口)と、型にはまらないふたりのなんとも自由なやりとりが繰り広げられた。

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3.5 3.5 (全1件)
  • 宿無しが現実に問う幸福の在処について 『トリック』や『20世紀少年』etc.クダけた笑いを散りばめた従来のエンターテイメント路線とは一線を画す異様な世界観に戸惑いつつ、新たな堤ワールドの境地に引き込まれてしまった。 人生を完全に諦... ...続きを読む

    全竜 全竜さん  2012年7月1日 20:25  評価:3.5
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