ライク・サムワン・イン・ラブ

劇場公開日:

ライク・サムワン・イン・ラブ

解説

イランの巨匠アッバス・キアロスタミが日本を舞台に描いたドラマで、デートクラブでアルバイトをする女子大生・明子と、そこで出会った老教授タカシ、明子の恋人ノリアキの3人をめぐる物語。80歳を超え現役を退いた元大学教授のタカシは、亡き妻に似た若い女性・明子をデートクラブを通して家に招く。しかし明子は、自分に会うために田舎から出てきた祖母を駅に置き去りにしてきてしまったことが気にかかり、タカシが用意した食事にも手がつけられない。翌朝、明子が通う大学まで車で送ったタカシの前に、明子の婚約者ノリアキが現れる。ノリアキがタカシを明子の祖父だと勘違いしたことから、次第に運命の歯車が狂い始めて……。タカシ役に84歳にして映画初主演となる奥野匡、明子役に「侍戦隊シンケンジャー」の若手・高梨臨。ノリアキ役を加瀬亮が演じる。

2012年製作/109分/日本・フランス合作
原題:Like Someone in Love
配給:ユーロスペース
劇場公開日:2012年9月15日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第65回 カンヌ国際映画祭(2012年)

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コンペティション部門
出品作品 アッバス・キアロスタミ
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映画レビュー

4.5巨匠が見た日本〜アッバス・キアロスタミ編〜

2022年5月22日
iPhoneアプリから投稿

祖母からの留守電を東京のギラついた夜景とオーバーラップさせるというやけに地に足のついたエモーショナル描写から始まったかと思えば、最後は夢とも現実ともつかない唐突な暴力で幕を閉じる、といういかにもアッバス・キアロスタミらしい意地の悪い映画だった。『桜桃の味』や『柳と風』を見終わったときと同様の「やられた」感。

思えば東京の繁華街を出発したタクシーが静岡の家康像前に辿り着くというのも地理的におかしい。彼自身、それをわかってやっている。こうしたフィクションのフィクション性に対する過剰なまでの自覚意識も彼らしい。

老人宅に飾られた矢崎千代二『教鵡』は、タカシの亡き妻と明子を超時代的に接続するためのハブとしての役割を果たしていた一方、キアロスタミ本人の思想というかアティテュードを表象してもいたように思う。

矢崎千代二は油絵という舶来的技法を内面化したうえで日本画を描いた。これは小津安二郎を呼吸しながらイラン映画を撮り続けたキアロスタミに通ずるところがある。『教鵡』には「私は日本で映画を撮ったけれども、それは邦画を撮ったということではない」というあまりに謙虚な彼のエクスキューズが織り込まれていたのかもしれない。

思えば本作はいつにも増して小津映画っぽい。撮影技法は言わずもがな。明子に留守電を入れまくる祖母や聞かれてもいない昔話をダラダラと語り続けるタカシの隣人なんかも小津映画に出てくるお節介なご近所さんそのものだ。しかし特にタカシの隣人がそうだったように、彼らの語りにはどこか違和感がある。より正確に言えば現代日本の空気感とミスマッチを起こしている。今時こんなベラベラ喋る奴いないだろ、という。

しかし上述の通り、小津映画にもこういう奴はいっぱい出てくる。ごまんと出てくる。にもかかわらずそちらに違和感はない。したがって両者のこの差異は、日本社会の日常を支える基盤のようなものがドラスティックに変化してしまったことを示しているといえる。小津的なコミュニケーションのあり方の消失。明子はそんなポスト小津的な人間の在り方の代弁者だ。他者を完全に拒絶するわけではないが、心のどこかに一線を引いて、その内側で身構えている感じ。

巨匠ヴィム・ヴェンダースが『東京画』で自分が探し求めていた「日本」が80年代の日本のどこにも存在していないことに気がついたように、キアロスタミ監督も実際の日本に触れることで彼と同様の感を得たのではないか。その気づきが明子という登場人物の人物像に流し込まれているのだ。小津的なものと非・小津的なものの奇妙な邂逅、そしてすれ違い。そういったものが異邦人という外部的視点からニュートラルに記述されている。これはもう「批評」と呼んで差し支えない。それでいて物語的な面白さはきちんと内蔵しているのだからすごい。

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因果

4.0独居老人の社会への関与の仕方

2021年5月9日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

出だしの意味がわからにのは、キアロスタミ監督のよく使う技法なので、黙って観察していたと言ったほうがいい。そのご、一人の女が男の曇った眼鏡をとって拭き出した。ええ? これなんだと思って見ていたが、期待している方向に話が進んでいってないなあとも思っていた。それに明子の優柔不断な態度に疲れてたとおもっていたら、ええ?タクシーに?タクシーに乗っておばあさんの電話を聞き始めたから、なぜ、会ってあげないのだろう?理解ができないうちに、あれ!お婆さんは孫、あきこが男を相手の仕事をしているのを心配しているのかなあとも思えた。高齢の男の部屋にあきこが入ったが、明らかにあきこは高齢の男を全くしらないという様子だった。会話は『読んだ本を捨てないの』とか『自分が奥さんに似ているとか』黒田清輝風の油絵の女性の前に立ち髪をあげ、女性の真似を初めてあった高齢の男の前ですることに不思議に思っていたが、徐々に何かが進行すると思って出番を待っている状態だった。それから、あきこが服を脱ぎ始めてそれを投げ出した。。あれ!!これはデリヘル? これが里のおばあさんにも会えない理由?全くわからなくなったけど、ここで視点をこの老人に変えようと思った。そうしたら他のものが見えてくると思って。高齢者に目を移すことでちょっと見えてきたものがある。

この高齢者は、若い女性の身体に興味があり、セックスの相手をさせたいのではなく、妻を失い余生があまりにもつまらなく人間的な交流ができなくなり、妻に似た彼女を招待したと言う形だが。いやいや、この彼女とフィアンセ、のりあき、である自動車修理人の人間たちの生活におじいさんとして入ったことにより、『頼りにされ』と言おうか、振り回されてと言おうか、生きがいを見つけ出したと言うことになる。

フィアンセ、のりあきはよく、キアロスタミが使うタイプの男で、良さをすぐに発揮するかと??? 二面性があり、アンガーマネージメントがいる人に!

困ったことに、DVDが傷ついていて、20分ぐらいスキップしなければならなく、残念。最後、のりあきが怒鳴り込むシーンから観られたが、よく分からずじまい。

多分、この高齢の男は、この件に関与していくだろう。だから、暇つぶしの独居老人ではなくなるね。これは、この老人にとってもいい刺激になり、あきこにとっても、もっと教養を深め、人間的にも成長していけるだろうと思った。日本政府が声を大にして叫んでいる『共助?』の精神の一つで、世代を超えて、助け合うことが少子化の現在、そして、未来に必要になってくる。あきこの独居老人へのアプローチはデリヘルであったとしても、それに、過去にもデリヘル歴はあったとしても、あきこの将来は明るく、先が見られる。大学に通って、机上の学びについていけなそうだが、社会では人生の相談ができて、人間性を学べる場所を見つけたと思う。こういう人生を見直せる生き方がみんなに必要になってくる。

P.S 日本の役者を使っている映画だから、一人ぐらい顔なじみの俳優がいると思ったが、誰も知らなかった。 主役の高齢者は白土だと聞いた。
キアロスタミ監督はなぜ、日本のデリヘルの存在を知っていたのか?

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Socialjustice

2.0インスタント邦画

2020年5月31日
iPhoneアプリから投稿

なんとも意味のない…雰囲気映画

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mamagamasako

3.5都会の片隅で擦れ違う老人と若者の葛藤

2016年10月14日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

年老いた元大学教授が、話し相手を求め、デートクラブを通じて女子大学生を家に招き、孤独を忘れようとする物語。

監督は『桜桃の味』でカンヌ映画祭パルムドールを受賞した巨匠アッパス・キアロスタミ。

日本の都会なのに妙に異国の香り漂う夜のざわつきは、ソフィア・コッポラの『ロスト・インストレーション』を思い出した。

しかし、日本文化を茶化すようなおフザケは一切無く、街の片隅で触れ合う老人と若者の距離を静寂に描き出している。

家族と疎遠な老人に対し、コールガールも上京した祖母を置き去りにした罪悪感を抱いており、寂しさを淡々と語るやり取りが微笑ましくもあり、痛々しい。

会話と周囲の雑踏、主人公と他人の表情、安心と不安、甘えと脅え、そして、街の景色etc.互いの間の取り方が実に絶妙。

外国人監督なのに、日本映画として全く違和感が無かったのは、類い希なるバランス感覚の良さに表れていると云えよう


また、彼女の恋人で老人を祖父と勘違いし、知り合う男を演じていたのが、邦画の第一人者・加瀬亮。

『アウトレイジ』シリーズで神経質なヤクザを怪演していたが、今作でも根はイイ奴やのにキレると手が着けられない凶暴な若者を切れ味鋭く疾走。

全体的に大人しいムードに波乱を投じ、最後まで緊張感を維持させる貴重な存在を発揮している。

老人の嘘が遂にバレ、3人のキャッチボールの顛末を見届けたかっただけに、途中で断ち切れてしまったのが残念無念。

嫌いではなく、むしろ好きな部類だが、一概にオススメはできない。

今年観た中でも珍しい後味の映画である。

では最後に短歌を一首

『夜出逢ふ 後ろめたさに 交わす嘘 桜浮かべど 沁みる簪(かんざし)』
by全竜

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全竜(3代目)
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