劇場公開日 2012年8月25日

あなたへ : 映画評論・批評

2012年8月14日更新

2012年8月25日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー

永遠のスター、高倉健をとことん見つめていたい映画

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スクリーンにその身ぶりが映し出されるだけで観客の目を釘付けする俳優を映画スターと呼ぶ。俳優・高倉健は齢80歳を過ぎた老優ながら、いまだ“スター”でいる数少ない俳優だ。彼に匹敵しうる存在は歳が1つ上のクリント・イーストウッドぐらい。ともに「昭和残侠伝」シリーズ(65~72年、助監督は降旗康男)と「ダーティハリー」シリーズ(71~88年)という代表作があり、主人公である渡世人の花田秀次郎と刑事のハリー・キャラハンはアウトローで、最後にはそれぞれに長ドスと拳銃マグナム44で悪を倒したアンチヒーローだった。現在までふたりとも現役俳優で、約半世紀にも及ぶフィルモグラフィーがあり、両者の顔には映画との格闘の歴史ともいうべき聖痕(シワ)が刻まれている。

高倉健の205本目となるこの主演作は、健さん演じる刑務所の指導技官が、亡き妻が遺した一枚の絵手紙をきっかけに、富山から妻の故郷・長崎の平戸まで、手作りのキャンピングカーで旅に出るロードムービーだ。アレクサンダー・ペイン監督の「アバウト・シュミット」よろしく、妻に先立たれた主人公がキャンピングカーで旅をする物語だ。しかし、長年刑務官として独身を貫き、壮年になって結婚した彼には子どももなく、出会う家族もいない。それだけに、旅先での一期一会の出会いや心の触れあいがいっそう沁みる。

最後のほうで健さんが東映任侠映画風にいう、いい“世話場”をするシーンがある。コンビ20本目となる降旗康男監督は、孤独だった主人公を救うかのように、慈しみに満ちた目線で健さんの横顔を映し出す。その聖痕の美しいこと。映画的美学は全般的に少々乏しいかもしれないが、この映画最大のスペクタクルは俳優・高倉健だ。スクリーンに帰って来た永遠のスターを、全編にわたってとことん見つめるべき映画なのである。

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