灼熱の魂

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劇場公開日:

灼熱の魂

解説

レバノン出身のカナダ人劇作家ワジディ・ムアワッドの戯曲をドゥニ・ビルヌーブ監督が映画化し、第83回米アカデミー外国語映画賞にノミネートされたヒューマンミステリー。

心を閉ざして生きてきた中東系カナダ人女性ナワルは、ある日、実の子で双子のジャンヌとシモンに謎めいた遺言と2通の手紙を残してこの世を去る。手紙はジャンヌとシモンが知らされていなかった兄と父に宛てたもので、まだ見ぬ家族を探すためナワルの母国を訪れたジャンヌとシモンは、母の痛切な過去と向き合うことになる。

後にハリウッドで「メッセージ」「ブレードランナー 2049」「DUNE デューン 砂の惑星」など話題作を次々に手がけ、高い評価を受けるビルヌーブ監督の出世作となった一作。2022年8月、デジタルリマスター版でリバイバル公開。

2010年製作/131分/PG12/カナダ・フランス合作
原題:Incendies
配給:アルバトロス・フィルム
劇場公開日:2022年8月12日

その他の公開日:2011年12月17日(日本初公開)

原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
※映画祭での上映や一部の特集、上映・特別上映、配給会社が主体ではない上映企画等で公開されたものなど掲載されない場合もあります。

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第83回 アカデミー賞(2011年)

ノミネート

外国語映画賞  
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映画評論

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(C)2010 Incendies inc. (a micro_scope inc. company) - TS Productions sarl. All rights reserved.

映画レビュー

5.0愛と憎悪が同時に襲いかかる

2022年8月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

2011年の封切時に観て以来の鑑賞だったが、やはりすごい傑作。ドゥニ・ヴィルヌーヴといえばこの作品だ。数奇な運命に導かれた憎悪と愛の物語。人はこれほど深く人を愛せるのだと描くと同時に、同じくらい深く憎悪できるということも描いている。
カナダに住む双子の姉弟が母の人生の真実を探るために、母の故郷のレバノンへ赴く。知られざる兄と父親を探せという母の遺言に従う双子は、やがて驚くべき事実に直面する。中東の現代史の複雑な背景があり、争いの絶えない地域で、悲劇が積み重ねられる。母もその渦中にいたことを知り、自らの出生にもその悲劇がつながっていることを知った双子ともに観客は衝撃を体感する。
一体、人間とはどういう野蛮な生き物なのか、同時にどれだけ慈悲深くなれるのか、この映画の結末は同時にその2つの相反することを問いかける。この映画を観ると、まさに魂が焼き尽くされる想いがする。

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杉本穂高

4.5今こそ観たい

2023年12月24日
iPhoneアプリから投稿

冒頭、複数の少年たちが頭を剃られている。どこの子どもか分からなくするために。一人の少年が強い怒りの眼差しでカメラを睨みつけている。「あなた方は証人ですよ」「しっかり見てください」。そして最後に、これが重要なオープニングシーンだったことに気づき、それまでこの子を忘れていた自分を恥じた。

ギリシャ悲劇のオイディプスが神殿の前にあっても真相がわからないように、双子の子どもたちは神聖な遺言書を前に、この時点で何もわからない。

人物の背景描写は差し込まないことでストーリーの進捗に速度を与え、観客をストレートに筋に招き入れる。
プールの水や血の映像が印象的。血塗られて生まれた兄と対照的に、カナダ育ちの双子は水(潤いと自由)の中で自らを解放したり、互いを抱擁する。
芝居のような手法と映像がよくマッチしていたと思う。

“アイデンティティ”や“愛”なんて入り込む隙がない過酷な環境で、母と子を待っていたのは最悪の出会い。
事態は想像を絶する場面に突入し、オイディプスがたどり着いた自身の出自と犯罪にイメージが重なる。

ムスリムに訓練された息子はキリスト教派に転身し、キリスト教の母はムスリムの暗殺者に転身しているわけだが、二人の運命の交錯を見ると、人間にとって望むことは生きることと平和のみで、思想や宗教はたいして関係ないことが伝わる。

そして、暴力の連鎖が続く中で負の連鎖を断ち切るには第三者の力が必要だというメッセージ。公証人というキャラの存在が説得力を持たせていた。

もう一度冒頭のシーンに思いを馳せる。自分が誰かも知らず、誰にも愛されなかった少年。真実の愛を知ることで、自分が愛の存在であることを思い出してほしい、人間の心を取り戻してほしい。それが叶わぬのなら、母も人間として死ぬわけにいかないのだ。遺言の言葉が腑に落ちた。

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Raspberry

5.0作品としての描き方が良い

2023年12月23日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

知的

難しい

主人公の女性(母)が、プールで見た偶然の再会によって、彼女の双子の姉弟が冒険することになる。
主人公はかつて自分自身に起きた数々の不幸と困難を乗り越えながら、どう受け取れば良いのかわからない子供を授かった。
彼女にとってかけがえのない子供は、同時に暗い過去を彷彿とさせるのだ。
これが姉弟がか今まで感じ取ってきた母に対する嫌悪感だった。
母の死後、公証役場の管理者が遺言状を手渡すが、それは、兄と父とを探せというものだった。
そして二人にそれぞれ手紙を渡せという。
母の軌跡をたどりながら、姉と弟はそれぞれを探し続ける。
同時に、当時の母の出来事がスイッチして描かれる。
映画の背景にあるのが、宗教的敵対と民族的敵対だ。
殺し殺され… それがずっと続く社会だ。
その中で主人公は夫を殺され、生まれてきた子供を孤児院へ出され、自分も村を追放されるのだ。
この敵対する構図は作品に色濃く描かれる。
その根底には「許せない」という言葉が渦巻いている。
最後に、母がプールで「それ」見たとき、そのすべての出来事が一つに繋がったことで、
そこに憎むべき人間などどこにもいなかったことに気付かされるのだ。
「憎むべきものなどどこにもない」と悟ったとき、
この精神を、心から愛する最初の息子と、今の姉弟の父と、そしてようやく二人の子供を心から愛せた理由を、二人の子どもたちにどうしても伝えたかったのだ。
人類史の中で今も繰り広げられているこの社会問題に終止符を打てという監督の意志が伝わる類い稀な作品だった。

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R41

4.5圧倒的な衝撃

2023年12月23日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

怖い

知的

中東の歴史に詳しくないため浅い部分しか理解できていませんが、
序盤から衝撃のラストまで釘付けでした。
「共生が何より大事」という言葉は残された者にとっては呪縛でもあり、
ナワルが憎しみ連鎖を愛によって断ち切ったように、
子供たちもそうであってほしいという最後の母の願いなのだろうと思いました。

シモンは元から母をイカれた人だと鬱陶しがっていましたが、
3人の生活はどんなものだったのか、その辺りも少し描いてくれるとよかったです。

中東の歴史に詳しくない私にとっては1つの物語としては理解できない部分も多く、
見終わった後にレバノンの歴史や宗教の対立問題等を調べるきっかけとなりました。

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ぞの
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