劇場公開日 2010年12月18日

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「旅、無愛想な、旅」ゴダール・ソシアリスム ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0旅、無愛想な、旅

2011年6月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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「勝手にしやがれ」などの作品で知られるフランス映画界の重鎮、ジャン=リュック・ゴダール監督が、6年振りに発表した長編劇映画作品。

修学旅行で行った京都。そこで出会った貸切タクシーの運転手が今でも記憶に残っている。「ここ、金閣寺」「ここ、平等院」「ここ、竜馬が死んだ所。早くしてくださいね」丁寧な説明も、愛想も一切なしで黙々と業務をこなす運転手の宝。当時はただ苛立ちしか感じなかったが、今になって思い出せば、不思議と頭に残る京都の名所。こんなガイドも、捨てたものではないのである。

さて、本作である。フランス映画界で最も解読不可能な映画を作る監督の一人とされるゴダール監督の最新作。物語を作り上げているのは、「原色の明るさ、不協和音のピアノ、古典映画の名場面、詩」。

「あ・い・う・え・お」や「A・B・C」といった言語の組み合わせが明確な意味を持つ言葉の積み重ねで説明されるスタンダードな映画作りは、徹底して排除されている。その代わりに、色・音・動き・響きという映画空間を支える雑多な要素を予定調和無視に投げ込んだ奇妙な世界。観客の自発的な考察や、想像を期待する無愛想な旅が始まる。

立ち止まって考え、「これは・・何ですか?」と問答を繰り返す暇も無く、誰かさんの溢れ出す感情の洪水に無理やり、突き飛ばされることで生まれる息苦しさ、孤独感、焦りに観客は大いに困惑させられる。だが、それに慣れた先にふと訪れる、穏やかな浮遊感と、脱力感。本作が世界で評価される要因は、この一点に尽きているのだろうと想像させる気持ち良さの極地。

言葉で表せない混濁した心の叫びと、とにかく伝えたい想いの力強さが支配する未開の地への旅。改めて、ごった煮芸術として生き続ける「映画」の奥深さと魅力をたっぷりと味わえる異色作となっている。口数少ないガイド付きの旅行も、やはり捨てたものではないのだ。

ダックス奮闘{ふんとう}