劇場公開日 2011年6月25日

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BIUTIFUL ビューティフル : 特集

2011年6月13日更新

「ノーカントリー」のアカデミー賞受賞でその名を世界に知らしめた実力派俳優、ハビエル・バルデムが、「バベル」のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の最新作で余命2カ月の難役に挑み、見事、カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞を果たした。本年度アカデミー賞主演男優賞・外国語映画賞ノミネート、6月25日公開「BIUTIFUL ビューティフル」でバルデムが体現する、父が生きた証とは?

カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞、アカデミー賞主演男優賞ノミネート
ハビエル・バルデムが全身全霊で挑む“魂の傑作”

余命幾ばくもない父親を熱演したバルデムは、カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞、アカデミー賞主演男優賞ノミネートを果たした
余命幾ばくもない父親を熱演したバルデムは、カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞、アカデミー賞主演男優賞ノミネートを果たした

■ハビエル・バルデムが余命わずかの父親を熱演!

バルデムが演じるのは、バルセロナの片隅で 幼い2人の子どもたちと暮らすウスバル
バルデムが演じるのは、バルセロナの片隅で 幼い2人の子どもたちと暮らすウスバル

「ライブ・フレッシュ」「夜になるまえに」「海を飛ぶ夢」などの重厚かつ奥深い人間ドラマの主演を務め、スペインを代表する名優の地位を確立したハビエル・バルデム。さらに「ノーカントリー」で謎の殺し屋アントン・シガーを圧倒的な存在感で演じ、当然のようにアカデミー助演男優賞を獲得した彼は、今や誰もが認める世界屈指の実力派俳優となった。

そんなバルデムに「(脚本を読んで)強い衝撃を受けた。この手の脚本をもらったら、不安を抱きながらも、期待と喜びに胸を膨らませて飛び込むしかない」と言わしめた最新作「BIUTIFUL ビューティフル」は、重病で余命幾ばくもない父親の物語だ。主人公ウスバルは妻との結婚生活が破綻し、スペイン・バルセロナの片隅でひっそりと暮らす男。ある日、末期ガンに冒されていると医師から宣告された彼は、失意のどん底に突き落とされながらも“死にゆく準備”を進めていく……。

日々を生きるため、時には違法行為にも手を染める 複雑なキャラクター。霊媒師としての顔も。
日々を生きるため、時には違法行為にも手を染める 複雑なキャラクター。霊媒師としての顔も。

ウスバルはつねに家族や知人を思いやる心優しい人物だが、あるときは霊媒師として他人の死を看取り、またあるときは日々の糧を得るため違法行為に手を染める複雑なキャラクター。この難役中の難役に挑んだバルデムは、ウスバルが病魔に蝕まれて痩せ衰えていく過程をこのうえなくリアルに演じつつ、幼い子ども2人の未来を守ろうとする父親の無償の愛を体現していく。それは死を受け入れた男が、渾身の決意で絞り出す最期の生の輝き。このハビエル・バルデムの新たな代表作は、闇の中のかすかな光をスクリーンにまたたかせ、観る者の心を震わす“魂”のドラマなのだ。



■黒澤明の「生きる」から生まれた魂の傑作

幸せな家族の形を取り戻そうと、薬物依存から更生 しようとする別れた妻マランブラに向き合うが……
幸せな家族の形を取り戻そうと、薬物依存から更生 しようとする別れた妻マランブラに向き合うが……

監督は「アモーレス・ペロス」「21グラム」「バベル」のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ。複数のエピソードを巧妙かつスリリングに交錯させる名手として知られる彼が、「BIUTIFUL ビューティフル」では自らの代名詞というべき独特の話法をあえて放棄し、主人公ウスバルがたどる運命をこれまでにない直線的な構成で映像化した。死を宣告され、残りわずかな人生の意味を見出そうとする男の心の移ろいを描出。重い題材に真正面から取り組み、より繊細に、より深くテーマを掘り下げようとした監督の意欲がひしひしと伝わってくる。大勢の移民が過酷なサバイバルを強いられている観光都市バルセロナの“影”の部分をえぐり出した、ドキュメンタリー的な視点も印象的だ。

また本作は巨匠、黒澤明の傑作「生きる」にインスパイアされて誕生した。「天才的なストーリーテラー」と黒澤を敬愛するイニャリトゥ監督は、「生きる」の主人公、渡辺(志村喬)が居酒屋で小説家に心情を告白するシーンを引用した場面を劇中に挿入。ともに人生や人間の根源的な問題を追求した「BIUTIFUL ビューティフル」と「生きる」を比較し、共通点やアプローチの違いを探ってみるのも興味深いはずだ。


■バルデム本人が語る「BIUTIFUL」の見どころとは?

迫りくる死を自覚しながらも、子どもの未来を 守ろうとする父親の無償の愛を全身全霊で体現
迫りくる死を自覚しながらも、子どもの未来を 守ろうとする父親の無償の愛を全身全霊で体現

「時系列順に撮影したので、肉体的な変化を演じる計画は立てやすかった。むしろ大変なのは、1日の終わりに抱えることになるさまざまな感情のほうだった」

ハビエル・バルデムはこのように撮影時の苦労を語り、主人公ウスバルを演じるうえで肉体面よりも精神的な負担が大きかったことを明かした。では彼自身、献身的な父親であり犯罪者でもあるウスバルの人物像を、どのように解釈して演じたのだろうか。

「ウスバルが持つ矛盾は脚本の中で見事に描写されていた。私がやらねばならないのは、そうしたウスバルのさまざまな顔を損なうことなく、それらの合流点を見つけることだった。ウスバルは非常につらい経験をし、現実と向き合わねばならないというごく普通の人間なんだよ」

また今回の撮影では演技初体験の子役たちと共演し、2児の父親でもあるウスバルの優しさや切ない思いを哀歓豊かに表現した。

「ウスバルは家族に何かを残すために、つらい現実を乗り越えなければならない。彼はポジティブな何かを残したかったんだ。子供たちに希望を与えるような何か、そして彼らが未来に携えていけるような何かを」

監督から出演オファーをもらったとき、「ただの仕事以上にすばらしい人生経験になると思った」と語るバルデム。そして映画完成後には「精神的に非常に大きな賭けだったが、たくさんの芸術的な見返りを得ることができた」と、今回の仕事の達成感を慎ましく言葉にした。オスカー俳優が全身全霊を捧げた演技の並々ならぬ“凄み”を、ぜひ劇場で感じ取ってほしい。


■ウスバル役にかけたバルデムのさらなる想いをインタビュー動画でチェック!



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