劇場公開日 2011年4月2日

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SOMEWHERE : 特集

2011年3月28日更新

満たされない心を抱え、寄り添える相手を探し続ける少女たち──ソフィア・コッポラが描き続けてきた“ヒロイン”の系譜とは? 彼女の過去作品を振り返りつつ、4月2日公開の最新作「SOMEWHERE」の根底にもしっかりと横たわる、ビタースウィートで浮遊感あふれる“少女性”を読み取る。

細部にまで行きわたったソフィア・コッポラらしさ
「SOMEWHERE」もまたファン必見の“ヒロイン映画”

「SOMEWHERE」のヒロイン、クレオもまた孤独を抱えた少女
「SOMEWHERE」のヒロイン、クレオもまた孤独を抱えた少女

■ソフィア・コッポラが描く“ヒロイン”の系譜とは?

孤独や居心地の悪さ、人生との不和を、ソフィア・コッポラは好んで描いてきた。「ヴァージン・スーサイズ」の主人公は13歳から17歳までの姉妹だったし、「ロスト・イン・トランスレーション」の主人公は大学を卒業して間もない若妻、そして「マリー・アントワネット」はマリーが14歳でルイ・オーギュストと結婚するところから始まる。いずれも輝く若さと美しさの持ち主。しかし、その無敵の魅力を時に持てあますかのように、彼女たちはその澄んだ眼を泳がせ、寄り添える相手やいるべき場所を求める。

ソフィアの物語の主人公は、おそらく少女時代の彼女自身がそうであったように、自分が特別な存在であることを理解している。それでいて、自信に満ちているわけではない。「ヴァージン・スーサイズ」の5姉妹は近所の少年たちの憧れの的であるのを承知で命を絶つし、人気写真家の夫とともに東京に来ながら高級ホテルに放置されている「ロスト・イン・トランスレーション」のシャーロットは、同じホテルに滞在し孤独を感じていた中年俳優に「行き詰まってるの。年とともに楽になる?」と質問。「マリー・アントワネット」では故国とは違うベルサイユのしきたりに戸惑いを覚え、逃げ場のなさや深まらない夫婦関係に焦燥感を募らせる。

そのソフィアが今回、「SOMEWHERE」の主人公に男性を選んだ。スティーブン・ドーフ演じるジョニー・マルコはハリウッドで活躍する俳優。肩の力が抜けた雰囲気の憎めない男だが、愛車はフェラーリで、数々のハリウッド・セレブやロック・スターに愛されてきたホテル、シャトー・マーモントで酒と女に浸り切って暮らしている。男性視点の物語?と驚く向きもあるだろう。しかし、ジョニーのもとに別れた妻と暮らす11歳の娘、クレオがやって来たところから、物語はソフィア作品らしい、ビタースウィートな空気を醸し始めるのだ。

“死にたかったわけじゃない。 自分を消したかっただけ”(セシリア) 「ヴァージン・スーサイズ」(99)
“死にたかったわけじゃない。 自分を消したかっただけ”(セシリア) 「ヴァージン・スーサイズ」(99)
“東京には何をしに?”(シャーロット) 「ロスト・イン・トランスレーション」(03)
“東京には何をしに?”(シャーロット) 「ロスト・イン・トランスレーション」(03)
“一緒に行けたらいいのに……”(マリー) 「マリー・アントワネット」(06)
“一緒に行けたらいいのに……”(マリー) 「マリー・アントワネット」(06)



■より純度の高い少女性を発揮する「SOMEWHERE」のエル・ファニング

娘クレオを突然預かることになった「SOMEWHERE」の主人公、ジョニー・マルコは、それまでの自堕落な暮らしを改めざるを得なくなる。彼女と過ごす普通の、だからこそ新鮮な日々の中で、彼は今まで忘れていた大切なものを思い出していく。

“ママはいつ戻るんだろう? パパは忙しいし……” とクレオ(エル・ファニング)は涙を流す
“ママはいつ戻るんだろう? パパは忙しいし……” とクレオ(エル・ファニング)は涙を流す

この作品で強い存在感を発揮するのは、やはりエル・ファニング演じるクレオだ。娘といるのに部屋に女を泊めたり、酔って階段から落ち骨折するようなダメ父のことが好きで、長く一緒に過ごしたいと願うクレオは、自らの立場をよく心得た大人のようでもあり、うんと幼い子供のようにも見える。母親は何らかの理由で娘の世話どころではなさそうだし、きょうだいもいない彼女は孤独に慣らされている。それでも、同じベッドで夜中にジェラートを食べたり、2人でプールで泳いだり、ジョニーの親友サミーと3人でWiiに興じたりといった楽しい時間(疑似恋愛のようにも思える)を過ごした彼女は、別れの時、猛烈な寂しさと不安に襲われる。その揺れ動く感情は「ママはいつ戻るんだろう? パパは忙しいし……」という言葉と涙によって、初めて決壊するのだ。

金髪に透き通るほどの白肌、綿のシャツに代表される清潔感あふれる出立ち、屈託のない笑顔と時折見せる不安そうな表情。エルはこれまでソフィアが描いてきたヒロインたちの系譜にありながら、より純度の高い少女性で私たちを魅了する。音楽の使い方は本作でも絶妙だが、西海岸のキラキラ感にあふれたグウェン・ステファニーの“クール”に合わせてクレオが銀盤を滑るシーンは圧巻。歌詞の中で繰り返される「I know we're cool」というくだりは、まさにクレオからジョニーに向けてのメッセージのようだ。

常に地上数センチのところをふわふわと漂っているかのような、生活感のない登場人物たちと、それゆえの虚しさとほろ苦さ――生まれた時から特別だったソフィアにしか描けない、親しみやすさと非現実感が交錯するドラマ。歴史あるホテルの持つ独特の雰囲気、それぞれの個性を生かしたファッション、音と静寂のバランス、そしてカメオ出演者などの細部にまで行きわたった彼女らしさ。だからこそ「SOMEWHERE」は、繰り返し観たくなる。



■ソフィアが描く独特の空気感を特別動画でチェック!



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