劇場公開日 2011年6月11日

「犬に涙、オジサンに涙、平井堅に、涙!!」星守る犬 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5犬に涙、オジサンに涙、平井堅に、涙!!

2011年7月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

幸せ

「イキガミ」などの作品で知られる瀧本智行監督が、日本映画界を代表する名優、西田敏行を主演に迎えて描く、ロードムービー。

「ロードムービー」と名のつく短編連作作品は、私達が想像するよりも遥かに難易度の高いジャンルの映画ではないだろうか。

中途半端に名の売れた俳優を旅の途中に出くわすチョイ役にし過ぎては、事務所から大人のご意見を頂戴することになるのはもちろん、個々のネタの配分を間違えれば全体の物語が散漫になったり、主人公の人柄がさっぱり掴めないままに終わってしまう。駆け引きとバランス感覚が求められる作品作りが必要だ。

本作の作り手は、その難しさを理解しているようだ。代表作「イキガミ」において、様々な事情を抱えながらも生きようとする人間の過酷なドラマを丁寧に活写しながら、主人公の苦悩と前進を鮮やかに描ききった技量を信じての起用。

過不足無く小さな日常の一コマである短編を消化しながら、力を加えずろ過するように、主人公である「オジサン」の哀愁、愛らしさを最良の形で観客に提示するという荒業を、いとも簡単にやってのけてしまった。観客を呼び込む娯楽作品としての話題性と、上質な人間描写としての芸術性。双方において、及第点に到達する作品を堂々と見せ付ける力と、センス。驚かされるばかりである。

三浦、余、中村と、どことなく胡散臭くも温かい人間達が、絶妙な尺で物語を彩ったと思えば、力の抜けた笑顔と、ささやかな寂しさが満ちるハッピーさんの悲しさ、可愛らしさ、孤独をカメラ遠目にじっくり魅せる。シンプルな物語に涙すれば、ラストの平井堅の歌声にまた、涙がどばああっと。

若干長い尺の物語も、適度にサスペンスや動きを加えて飽きさせない工夫も嬉しい。東北の華麗な、かつ素朴な風景の中でじっくり心が温まる作品だ。

ダックス奮闘{ふんとう}