劇場公開日 2010年2月13日

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「騙されては、いけない」処刑山 デッド卍スノウ ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0騙されては、いけない

2011年2月26日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

笑える

怖い

興奮

北欧ノルウェーの奇才、トミー・ウィルコラ監督が描き出す、不条理感が前面に漂う異色のホラー映画。

ホラー作品には、観客を日常から強引に引っ張り出してくれる不条理感と、思わず吹き出してしまうようなセンスの良いユーモアが必要だと、私は考えている。目を覆わずには入られない残虐な描写も、そればかりが連続していると気分が萎えてしまう。かといって、倫理観ばかり意識して表現を萎縮してしまうと、物語がグダグダになり、その力を失う。

観客を恐怖のどん底にぶち込む高い表現力と、その合間に差し込む安心、コミカルな描写。この絶妙なバランスこそ、ホラー映画に求められる要素であり、極めて高い表現技術が求められる。

その点にあって、本作は非常に純度の高い恐怖を違和感無く提供してくれる。

不気味なタイトル、そしてコメディの如きスチールから本作を低級のTV映画と勘違いしてしまう方もいらっしゃるかもしれない。しかし、騙されてはいけない。この作品、ホラー映画、ゾンビ映画の伝統手法を無駄なく取り入れ、かつ、遊び心と意欲的な撮影技法に満ち溢れた魅力溢れる快作に仕上がっているのである。

ノルウェーの雄大な雪山風景をどのように切り取れば美しく、そして恐怖を倍増させてくれるかを考え尽くした上で構成される遠景。現実ではありえない人間の動き、姿をリアリズムを意識しつつ描きこむセンス。加えて、惨劇の中では決して笑えないが、意外と下手な漫才師よりもツボを押さえているギャグ。

そのどれもが高度に融合し、観客を一気に物語へと引きずり込んでいく。

登場人物を医学生に設定したのも、一般市民を持ち込むよりも極めて高水準の悪あがきが用意できて、小気味良い。

ゾンビが屈強なナチスの軍隊で、生前の高い身体能力を維持したまま医学生達に襲い掛かる。頭を打てば死ぬという使い古されたゾンビの倒し方は通用しない。この荒唐無稽で、それでいて新しいホラーの解釈がここにある。魅力は、伝統を潔く壊した先にあることを、本作が力強く証明している。

オチも取りこぼす事無く、堅実に回収。目ざとさ、したたかさ、そして挑戦。北欧ホラーの底力をまざまざと見せ付けてくれる。恐れ入りました。

ダックス奮闘{ふんとう}