劇場公開日 2011年3月12日

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塔の上のラプンツェル : 映画評論・批評

2011年3月8日更新

2011年3月12日よりTOHOシネマズ有楽座ほかにてロードショー

魔法の力を切断することで未来を切り拓くファンタジー

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美しき絹糸のように流れるエレガントな金の髪。全盛期のモン・サン・ミシェルを模した城を中心に拡がる、優雅で鮮やかなロココ調の美術。そして、人々の願いを込めた煌びやかな無数のランタンが空に浮かび上がる幻想絵巻。ギャグとアクションとロマンスの配合は抜群で、ピクサーと合体したディズニーアニメは完全に息を吹き返した。ブランドが揺らぐ時代にあって、プリンセスものという王道に挑み、キャラクターが内面を歌い上げるミュージカル形式を蘇生させつつ、3DCGならではの動的表現を融合させて温もりある質感を実現している。

特筆すべきは、グリム童話を換骨奪胎して今を反映させた物語。さらわれて塔の上に幽閉された姫を連れ出す泥棒が彼女の心までも奪うというプロットは、我らが「ルパン三世 カリオストロの城」へのオマージュでもあるのだろう。だが重要なのは、永遠の美を与える力を秘めた長く伸びすぎた髪が、欲望に駆られた親による束縛の象徴であることだ。孤立した高い塔で過ごす歳月とは、組織や家に囚われ、隔絶されたまま生きる現代人の閉塞感をも表す。息苦しい反面、居心地よくもあるその空間から踏み出すには、大いなる勇気を必要とする。理想の男性と結ばれることだけを夢見るお姫様とは対照的に、ヒロインは外界を目指し、知恵をめぐらせ前進する。これは我欲を抑えられない大人たちを否定し、魔法の力を切断することで過去と決別して未来を切り拓くファンタジーである。

清水節

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