劇場公開日 2010年1月30日

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おとうと : インタビュー

2010年1月23日更新

笑いながら行間を読み解く、笑福亭鶴瓶の底力

どこか憎めない笑顔
どこか憎めない笑顔

■波風立たないところに行ってはいけない

劇中で、鉄郎は蒼井扮する小春の名付け親になっている。この事実は、鉄郎のアイデンティティに計り知れないほどの影響を与え、無茶ばかりしてきた一面とは別の表情をうかがわせる。その小春から辛らつな言葉を浴びせられ、逆上した鉄郎が手土産で持参したアイスクリームを2人に投げつける場面に全てが集約されている。

鶴瓶にとっても、全編通じて最も印象に残るシーンに挙げ「あんなにいい姉ちゃんに向かってあんなことをするなんて、覚悟のうえですよね。ずっと疑っていたんだと思うんです。『オレがこんなに優しくされるわけがない。やっときたな』って。金も借りてるし、もちろん本人が悪いんですよ。それでも謝ったら許してもらえると思っていた。だけど、許してもらえないとも思っていたはずなんです。鉄郎みたいな人間はね、波風立たないところに行ってはいけない人間なんですよ、波風立つんですから。それを映像で表現する山田監督ってすごいと思いましたね。一体どんな生活してはんのやろ」と持論を展開した。

小百合さん、もっと叩いて
小百合さん、もっと叩いて

■小百合さんと「失楽園」どうですか?

そして、このシーンにはもうひとつの伏線がある。「アイスクリーム投げる前にね、バッチーンって吉永さんに叩かれるんですよ。あのね、吉永小百合に叩かれるっていいですよ。カットがかかると『ごめんなさい!』ってほほをさすってくれてね。全然痛くない。全く痛くない。もっと叩いてって感じでしたね」と目を細め、鼻の下を伸ばしてうっとりしてみせた。

こうして山田監督にとって「十五才・学校IV」以来10年ぶりの現代劇が完成した。昨年11月に行われた完成会見では、吉永が「次回は夫婦かしら?」と意味深な発言をしている。「そんなん言うてはりましたね。吉永さんとなら、夫婦でも何でもやりますよ。恋人だっていいわけじゃないですか。熟年愛……『失楽園』みたいなの、どうですか? あかん、吉永さん、全然似合わへん(笑)」

脚本につづられているセリフの行間を真摯に読み取る一面、そして吉永に叩かれたことを破顔一笑する一面、この両極端さは鶴瓶の豊富な人生経験が成せる技であり、最大の魅力といえる。今後、鶴瓶がどんな役どころで作品を色づけをし、映画人を唸らせるのか目が離せない。

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