レスラー : 新作映画評論

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レスラー

劇場公開日 2009年6月13日
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レスラー 6月13日よりシネマライズ、TOHOシネマズシャンテ、シネ・リーブル池袋ほかにてロードショー

孤独とフェイクを絡ませながらロークが描いた優雅なハート

ミッキー・ロークが演じるランディ・“ザ・ラム”・ロビンソンの本名は、ロビン・ラムジンスキーという。

と書いただけで「レスラー」の構造は読めるかもしれない。ここには、二重三重のフェイクが仕込まれている。生活のためスーパーマーケットで働くときはロビンの名札を付けさせられ、知人にはランディと呼ばれ、リング上ではラムとコールされる。ラムは、美容院で長髪をブロンドに染め、日焼けサロンで肌を褐色に変え、自らステロイドを注射して筋骨隆々の肉体を捏造する。

ややこしくも面白い構造だ。しかも駄目押しがある。ランディに扮したローク自身が、俳優業を中断してボクサー業に挑んだ過去があるからだ。リングで繰り出した猫パンチを笑われ、ロークの挑戦は挫折に終わった。本人に訊いたわけではないが、当時の彼は「しまった」の気分と「ま、いいか」の気分を相半ばさせていたのではないだろうか。

遊びは芸のこやし、とよくいわれる。ロークの体験も、まちがいなく芸のこやしになっている。私生活と芸を安易に重ね焼きするのは愚かなことかもしれないが、私生活を通じて身についたコクが芸に反映されているのを無視するのはもっと馬鹿げている。

だからこそ、「レスラー」のロークは見飽きない。老眼鏡をかけて公衆電話の番号を押し、シャワーキャップのような衛生帽をかぶってお惣菜売り場に立つランディの姿は、リングで戦うラムに優るとも劣らぬ印象で観客の脳裡に焼き付けられる。孤独とフェイクを濃く絡ませながら、ランディのハートは不思議に優雅な気配を立ちのぼらせている。

芝山幹郎

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