真木栗ノ穴のレビュー・感想・評価
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ピーピングトム
定食屋でバイトしていた中年女・沖本シズエ(キムラ緑子)に誘われるまま、彼女のアパートに行き、一緒に風呂に入った真木栗勉(西島)。自宅へ戻ると部屋が荒らされていた。手の込んだ強盗で、やもめ暮らしの男を部屋へ招き、その間に泥棒に入るという手口だったのだ。その取材に来た週刊誌の男に官能小説を書いてみないかと誘われ、金に困っていた真木栗はすぐにOKする。しかし、筆が進まない。自室にあった穴を題材に書くことにしたのだ。
最初はボクシングをする若者と恋人のセックスを覗き見て書いていたのだが、アパート近くで出会った女・水野佐緒里(粟田)が空き部屋に越してくればいいのにと願うようになった。数日後、その女が越してくる。企業の業績悪化で転落の一途を辿る夫と別れて、独り暮らしを始めたらしい。まずはその元夫とのセックス。リアルに自室の穴から見たままを描き、雑誌の連載も好調。最初は見たままだったが、やがて想像を働かせて書き綴ると、そのままの情事が繰り広げられた。まずは運送屋、そして頭痛薬をもってきてくれる置き薬屋(尾上寛之)。
筆も順調になったのだが、徐々にやつれていく真木栗。心配した担当の浅春(木下)は彼から不思議なことを聞く。拘留、入院した沖本が彼の前に現れたというのだ。そして、運送屋も置き薬屋も死んでしまった。また、佐緒里自身も夫と心中したというニュースを聞いてしまう・・・
現代版「牡丹燈籠」のようなストーリー。まさか怪談だとは思わなかったので驚かされた。自分も佐緒里を抱きたくなったのか、連載小説にも自分を登場させ、それが現実になることを望んだのだ。しかし、彼女が幽霊なのだとわかった途端、書き直さねばならない・・・ところが最後には孤独が彼を引き寄せるように原稿を破り捨てないで隣の部屋へと向かう・・・
面白いのだが、次々と死んでいく者たちの日にちがちょっとわからない。佐緒里とセックスしてから死んだのか、死んでからそのセックスを目撃したのか?そして沖本はなぜ死ななければならなかったのか?全ては真木栗の想像の世界?と考えてみると、辻褄が合わなくなる点が多い。物語の発想はいいのに、ディテールがダメといったところか・・・
西島秀俊が名演技。瘦せていくという表現があったので霊に取り憑かれて...
西島秀俊が名演技。瘦せていくという表現があったので霊に取り憑かれてというオチになるのでしょうか。
小説に書いたことが現実になっていくあたりからじわじわくるホラー感。妄想とも現実ともつかぬ映像。
入った人が死んでいること、覗いていた女も実は死んでいて、その部屋は空き部屋だったという。世にも奇妙な物語。
ホラーまでは見に行かないけど、不思議世界に浸りたい方にお勧めします。
屋根裏から止宿人の生活を覗き見し秘密を見る江戸川乱歩『屋根裏の散歩者』に近いお話。また書いた小説どおりに、事件が起きるのはジョニー・デップ主演『シークレット ウインドウ』品を彷彿とさせます。
原作は、四谷ラウンド文学賞を受賞し、評論家に絶賛された女流作家・山本亜紀子による異色の小説『穴』。
となり部屋と隔てる壁に穴が空いていたら、あなたはどうするでしょうか。主人公である作家真木栗勉は当然のぞくのが人間の性だといって、絶対覗かないと言いはる担当編集者の浅香に偽善者のレッテルを貼るのです。
狭い部屋で、覗きに没頭する真木栗。熱中していて自分がどんなヘンな格好で覗いているのかも気にしていないのです。そこを浅香に見つかったときにヨガのポーズと言いはるところが可笑しかったです。
穴というものには、エロティシズムとミステリーが漂います。特に隣室に越してくる妖しい女佐緒里は、清楚な美人。ところが穴から覗く男たちとの情事では、まるで別人のように悩ましく求め、喘いでいるのでした。
築後40年の古いアパートという背景のなかでの情事。それを壁に空いた穴から覗くシーンは、大昔のロマンポルノの雰囲気が漂っていたのです。
ところがこの情事、不思議なことに真木栗が描く官能小説の筋書き通り、佐緒里と接触した男たちが、突如佐緒里と関係を持ってしまうのです。それだけでなく接触した男たちは、交わって数日で次々に怪死していくのです。
詩文の小説の架空の世界と現実とがリンクする事態に、のぞき見の好奇心と不可解な恐怖感が真木栗を狂わしていくのでした。
そして、テレビのニュースで隣に住んでいるはずの佐緒里がすでに元夫と心中していること。住んでいるアパートは幽霊のたまり場であることを知った真木栗は愕然とします。 もうその頃には、真木栗は何かに憑かれたように、痩せこけていくのでした。それでも真木栗は、田舎から贈られた梅酒をもって、隣に住む佐緒里に届けます。二人で肩を寄せ合いながら、酒を酌み交わすのでした。
それは真木栗の妄想なのでしょうか。現実なのでしょうか。監督はどちらともとれる絵作りをしています。妄想が現実となり得る、不思議な時間のない場所に存在する映画なんですね。
映画の舞台となった古都・鎌倉。その一角にひっそりある、緑と水に濡れた釈迦堂切通し。そこは現実と幻想の境界のよう。この場所を超えて、舞台となる真木栗のアパートの領域に入れば、混沌としていきます。懐かしもあり恐いところでした。
深川栄洋監督と主演西島秀俊が誘う、日常の、その先にある「幻想の世界」を見事に描き出しています。ごく普通の作家が穴を通じても狂気の主人公に変容していくところはすごくよく演じていました。
深川監督の演出は、「きみの友だち」なみにスローテンポで、芝居をじっくり見せるタイプでした。
佐緒里を演じた粟田麗は、清楚さの中に漂うエロティシズムが白い日傘に映え、まるで古き良き日本映画のヒロインのようでした。「昭和モダン」の薫りがたちこめる女優としてベテラン監督から重宝がられているのも頷けます。
そして、キムラ緑子、北村有起哉、松金よね子、田中哲司、利重剛らの実力派が若い監督をしっかり支えて重厚感を醸し出していました。
ラストの余り説明しない終わり方には、いささか不満はあるものの、古都鎌倉を舞台に舞台に、本のページをめくるように物語は、妖しく展開し、白日夢のような世界に誘われることでしょう。
ホラーまでは見に行かないけど、不思議世界に浸りたい方にお勧めします。
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