ぐるりのこと。 : 新作映画評論

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ぐるりのこと。

劇場公開日 2008年6月7日
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ぐるりのこと。 6月7日よりシネマライズ、シネスイッチ銀座ほかにてロードショー

累積した苦しみを吐き出した橋口亮輔の新たな決意表明

画像1(C)2008「ぐるりのこと。」プロデューサーズ

あえて劇的な出来事を描かず、画面の外に感じさせるこの静かなる映画には、不思議な磁場がある。すうっと魂をもっていかれた観客は、次第に発狂していったバブル崩壊後の約10年を背景に主人公と共に心掻きむしられ、この状況から何とか逃れたいともがくことになるだろう。

ごく普通の夫婦――自堕落で飄々としたリリー・フランキーと、思い詰めがちな木村多江の日常。認められたい、愛されたい、幸せを掴みたい……。女として当然の願いが叶わなかったとき、妻は心の均衡を失う。壊れゆく木村の演技が凄まじく、演技を感じさせないリリーとの掛け合いは、感情のぶつかり合う修羅場と化す。法廷画家という夫の職業は、同時代の病理を感じさせる上で作為的にも思えるが、幼女殺害や地下鉄サリンを始め陰惨な事件を巻き起こした被告たちを垣間見つつデッサンする様は、僕らがメディアを通して社会を体感した似姿といえる。90年代に表出した悪意の数々はこの国に生きる者のささやかな生活をも黒く覆い、確実に精神に影響を及ぼしてきたという事実を、映画は黙々と暴き出す。

しかし、絶望のままでは終わらない。ただひたすら夫は妻に寄り添い、時間を共にする。意味を求め理想を追うことを止め、漂うように生き直す緩やかな生。射し込む一条の光は、希望と呼べるほどまばゆくはない。生きづらい人生を緩和させ癒すのは、たった一人の理解者であるという、実感に基づく橋口亮輔の心の声が聞こえてくるようだ。これは、時代とシンクロしてきた作家が累積した苦しみを吐き出し、再び歩み出そうとする決意表明でもあるのだろう。

清水節

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ABOUT THE MOVIE

  • ぐるりのこと。 画像2
  • ぐるりのこと。
  • 「二十才の微熱」「渚のシンドバット」の橋口亮輔監督が「ハッシュ!」以来6年ぶりにメガホンを取った人間ドラマ。バブル崩壊から21世紀にかけて社会が激変した時代を背景に、実際に起こった犯罪・事件を織り込みながら、ある夫婦が辿る希望と再生の10年間を描く。主演はともに映画初主演となる木村多江とリリー・フランキー。共演に倍賞美津子、寺島進、柄本明、寺田農ほか。
  • 監督・脚本・原作:
    橋口亮輔
    撮影:
    上野彰吾
    音楽:
    Akeboshi
    企画:
    山上徹二郎
    出演:
    木村多江、リリー・フランキー、倍賞美津子、寺島進、安藤玉恵、八嶋智人、柄本明、寺田農、木村祐一、斎藤洋介、温水洋一、加瀬亮、光石研、田辺誠一、横山めぐみ、片岡礼子、新井浩文
    2008年日本映画/2時間20分
    配給:
    ビターズ・エンド
  • 6月7日よりシネマライズ、シネスイッチ銀座ほかにてロードショー
  • オフィシャルサイト

(C)2008「ぐるりのこと。」プロデューサーズ

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