劇場公開日 2008年5月31日

アウェイ・フロム・ハー 君を想う : 映画評論・批評

2008年5月27日更新

2008年5月31日より銀座テアトルシネマほかにてロードショー

悲劇の中でこそ、人間のエゴや許容度が顕わになる

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どんなに仲の良い夫婦でも、お互い20%位は相手に不満を抱いているもの。その不満を押さえて一緒の生活をキープさせるのが、積み重ねてきた共通の記憶だ。もし突然、その記憶が奪われたら夫婦の絆はどうなるのか。アルツハイマーに記憶を奪われた妻を前に、夫は、積み重ねてきた夫婦の絆を突然ゼロに戻されたと感じる。病気だから仕方がないという境地にはほど遠く、今までの2人の絆さえあやふやに思ったり、妻が過去の自分の浮気を罰しているのではと疑ったりする。悲劇の中でこそ、普段は見えない人間のエゴや許容度が顕わになっていくというサラ・ポーリーの視線がシビアで、人間ドラマとして説得力がある。冬のカナダの凍てついた空気を感じさせる透明感のある映像、そして静かな演技。知的で思慮深い演出は、サラの並々ならぬ才能を伺わせるに十分だ。

ただ、記憶が壊れた妻との関係さえもYESかNOかと突き詰めて確認したがる夫を見ていると、これは個と個が向き合う西洋文化の精神構造なのでは?という気もしないではない。小津映画に見るごとく、夫婦が並んで同じ方向を見ている日本の夫婦は、曖昧さという知恵を使ってもっと穏やかに苦しい時を乗り越えるだろう。そんな気にさせられた。

森山京子

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