劇場公開日 2008年8月9日

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ダークナイト : 映画評論・批評

2008年7月29日更新

2008年8月9日より丸の内プラぜールほかにてロードショー

脳髄にからみつく超高速アクション

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ジョーカーが化けた。「バットマン」第1作でジャック・ニコルソンが扮したジョーカーは「究極のオブジェ」だった。装置や衣裳が印象的だったあの映画のなかでも、ニコルソンの姿は極彩色のオブジェだった。単騎で際立つ彼の言動に、私は笑った。

「ダークナイト」ではヒース・レジャーだ。こちらのジョーカーは、観客を凍りつかせる。裂かれた口も紫の上着もずっと地味だが、その無意識はアナーキーの極致だ。広い背を丸めて邪悪の限りを尽くし、黄色い歯の間から毒に満ちた言葉を吐く。己の異形がバットマンの異形の補完物であることを自覚し、「俺はおまえを殺したくない。おまえは俺を完成させてくれるからだ」とつぶやけば、「ダークナイト」の闇とカオスは一気に深まる。

ジョーカーを通してモラルの境界で揺れる無意識を際立たせたのは、脚本の功績だ。クリストファーとジョナサンのノーラン兄弟は、白騎士デント検事(アーロン・エッカート)と黒騎士バットマン(クリスチャン・ベール)との間にもきわどい軋みを忍び込ませる。そこにジョーカーをからめた三角関係、というよりも三重衝突がこの映画の急所だ。が、哲学の深みは映画の運動感を落とさない。陰と陽と半陰陽は猛スピードで交錯し、バットポッドにまたがったバットマンは、両刃の剣と化しつつゴッサムシティの戦場を駆け抜ける。「ダークナイト」は、濃くて速くて脳髄にからみつく傑作だ。

芝山幹郎

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