無人の野

劇場公開日:

解説

戦場を舞台にして、若夫婦のささやかだが愛情にみちた家庭生活を描く。75年4月のサイゴン解放後、同市(現在のホー・チ・ミン市)に創設された総合撮影所で作られた映画で、解放後の南ベトナムで製作された映画が日本で上映されるのは、これが初めてである。81年度モスクワ国際映画祭金賞、批評家大賞を受賞している。監督のグェン・ホン・センは解放戦の記録映画を撮りつづけた人物で、長編劇映画は「季節風」(79)に続く二作目。今39歳で、この映画のヒロインを演じるグェン・トゥイ・アンは彼の妻である。脚本はグェン・クァン・サン、撮影はズオン・トゥアン・バ、音楽はチン・コン・ソン、美術はフィン・キム・ゴクが担当。出演はグェン・トゥイ・アン、ラム・トイ、グェン・ホン・トゥアン、ダオ・タイン・トゥイ、ロバート・ハイなど。

1980年製作/95分/ベトナム
原題:Canh dorg Hoang
配給:「無人の野」普及委員会
劇場公開日:1982年8月14日

ストーリー

ベトナム戦争後期の1972年。南ベトナムのクー・ロン・デルタ地帯ヘの入口に当るドン・タプ・ムオイ地区。アメリカ軍は戦場にはさまれたこの地区を“無人地帯”にし、ベトナム解放軍同士の連絡を断とうとした。住民たちは強制的に戦略村に収容される。しかし、その無人の野にも人間の営みはあった。若い農民のバドー(ラム・トイ)、妻のサウ・ソア(グェン・トゥイ・アン)、二人の間に生まれたスアン・ヴー(グェン・ホン・トウァン)が、水上家屋に住み、解放軍の連絡員をつとめていた。彼らの生活はアメリカ軍のヘリコプターにおびやかされることもあった。ある日、小舟で出かけたソアは、ヘリに襲われ、あやういところでソアは水中に逃がれたが、小舟は爆破された。アメリカ側はヘリの撮影した小舟の写真を見て住民がいることを知り、ジーン中尉(ロバート・ハイ)に絶滅を命じた。その頃、連絡員の基地では隊長(ホン・チー)が、ホー・チ・ミン大統領の言葉「独立と自由より尊いものはない」を引用して、奮起を呼びかけていた。バドー夫婦の間にもちょっとしたいさかいはあったが、すぐに仲直りした。アメリカ軍のヘリは、バドーたちが育てる水稲を見つけた。夫婦は地上の待避壕に居を移し、夜間に稲刈を終えた。解放軍の攻撃が迫り大部隊が近くの林に到着する。バドーはついにアメリカ軍のへリに追いつめられて、射殺された。ソアは夫の死を目前にして銃をとり、ヘリの射手を撃ちおとした。他の連絡員たちの一斉射撃でヘリは撃墜された。ヘリにはジーン中尉の死体があり、そのそばには彼の愛妻と赤ん坊の写真が落ちていた。ソアの耳には待避壕で泣き叫ぶわが子の声が聞えてくるようだった。

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スタッフ・キャスト

監督
脚本
グェン・クァン・サン
撮影
ズオン・トゥアン・バ
美術
フィン・キム・ゴク
音楽
チン・コン・ソン
字幕
山田和夫
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映画レビュー

4.0ベトナム人が作った貴重なベトナム戦争映画

2021年1月17日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 定期的に連絡するベトナム人。しかも湿地帯に舟で集合するのだ。女性兵士が乳飲み子を抱える夫婦の元へ手伝いに行くと申し出るがデルタ地帯は厳しい。何度もヘリからの攻撃を受け、家も爆破されたりするが、たくましく生きていく親子3人。

 ヘリが接近してきたら潜るしかない。赤ん坊をビニール袋に入れて潜る夫婦。戦争というものが最初からそこにあったかのように当然のごとく逃げ隠れるのだ。全編白黒映像で自然の美しさも感じられず、混沌とした戦況下での生きることだけが使命であるような思いが伝わってくる。

 主人公の夫バー・ドーが最後に殺されてしまうが、その仇を妻サウ・ソアが討つ。よちよち歩きの彼らの赤ん坊と、子供の写真を抱えて死んだ米軍兵士との対比がなんともいえない無情感を醸し出していた。

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kossy