ミモザ館のレビュー・感想・評価

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4.5報われない愛の行方をドラマチックに描いた人間ドラマの重厚さが素晴らしい、フランス映画の運命劇の逸品

2022年1月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

1930年代のフランス映画が映画史上の黄金期に位置付けられるのは、洒落たタッチの軽妙な名人芸で魅了したルネ・クレール、ユーモアとペーソスを劇的に盛り上げたペシミズムのジュリアン・デュヴィヴィエ、豊かな感性で人間を包み込むように描いたジャン・ルノワール、そしてリアリズムでシリアスなドラマを構築したジャック・フェデーといった特徴の異なる名匠が揃って優れた作品を創作したからであろう。トーキー映画の表現法と不安定な政治状況を背景とした激動の時代に生まれたそれらの諸作は、より映画の役目と意義を持つことになる。
この作品は、そのフェデー監督の特質が、継母と息子の愛情を主題とした余りにも通俗的な家庭劇を、まるでワインの芳醇を味わうが如くの耽美主義に導いていた。確かな演出と巧緻な演技による重厚な人間ドラマの傑作である。養子を溺愛する母親ルイズに扮して、与える愛に苦しむフランソワーズ・ロゼーは、その心理を表現力豊かに演じて見事に尽きる。同時に好人物の主人ガストンを演じたアンドレ・アレルムの上手さも特筆したい。ロゼーの深刻な演技とは対照的に、明るく機知に富んだ人物を的確に表現していて、長く舞台で活躍したベテラン俳優と充分頷かせる。ドラマとして、これほどまでに演出と演技が溶け込みムードを高めているのは、滅多にないであろう。
舞台は南フランスの海岸に近い町。子供に恵まれなかった夫婦が少年ピエールを養子に迎え、幸せに暮らしていたミモザ館に、突如として刑期を終えた実の父親が現れ、ピエールを引き取りに来る。この場面のガストンの態度が一変するところが巧い。そこから10年の月日が過ぎてピエールはパリで荒んだ生活をしている。そのピエールにお金の工面をするルイズ。しかし、ピエールは賭博場の親玉ロマニの情婦ネリーに溺れる。この設定から繰り広げられるルイズとピエールとネリーの三角関係が、結局は破滅へと突き進む。なんと簡略化された俗っぽいストーリー。しかし人間の欲と愛の行方を捉えた展開を見せて、ラストシーンで魅せる愛の無常観が素晴らしい。運命的な人間ドラマを構築するフェデー監督の演出の巧さが、映画の完結性と劇的興奮を生んでいる。これこそ、この時代の映画の在り方であろう。

  1978年 11月17日  フィルムセンター

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Gustav