ミモザ館

解説

「外人部隊(1933)」に次ぐジャック・フェーデの監督作品で、シナリオと台詞も前作と同じくフェーデがシャルル・スパークと協力して書いたものである。主役は「外人部隊(1933)」「母性の秘密」のフランソワーズ・ロゼーで、舞台から来たポール・ベルナール、同じくアレルム、それからコメディー・フランセーズ座のリーズ・ドラマールがそれを助けて重要な役を勤めるほか舞台から来たジャン・マックス、ポール・アザイス、アルレッティ、「乙女の湖」のイラ・メエリー、「最後の億万長者」のレイモン・コルディ、子役のベルナール・オプタル、等も出演している。撮影はロジェ・ユベール、装置はラザール・メールソンの担任である。

1935年製作/フランス
原題:Pension Mimosas

ストーリー

一九二四年。南フランスの海岸に近いある町にミモザという下宿があった。主人は血の気は多いが好人物のガストンという人物で、カジノの賭博室の取締をして居り、下宿の一切はしっかり者の妻のルイズが切り廻していた。だが、この夫婦の間には子がなくその淋しさから、獄に曳かれた男の子供ピエールを引き取って育てていた。ピエールは周囲の環境からルーレットの魅力を身体じゅうに感じて生長した。これがルイズには心配だった。そして或日、ピエールの父が子供を連れ戻しに来た時には、この夫婦は最愛の我が子を奪われる様に嘆いた。それから年は経って一九三四年。ミモザは今は立派なホテルとなっている。そしてパリにいるピエールからは、ここへしばしば金の無心の手紙が舞い込んで来る。その内にピエールが病気だと聞き心配の余りルイズはパリまで出かけて行くと、ピエールは与太者の集まりの様なホテルで、賭事に溺れて暮らしていた。しかも或る賭博場の持ち主ロマニの情婦ネリーと恋し合い、ロマニの手下から殴られた。ルイズは彼の身を案じミモザに帰れと勧めた。ネリーがロマニの怒りを柔らげるため彼と共にロンドンに行ったので、ここでピエールも始めてミモザに帰ることとなった。帰ると彼はニースの自動車会社に勤め、そこでよく働き出した。そしてルイズにもガストンにも楽しい日が暫く続いたのだが、その或日、ロンドンのネリーからピエールに一緒になりたいから旅費を送れと云って来た。ルイズがその金を調達を断ると、恋に目くらんだピエールは母の金を盗もうとまでした。始めは情けなさに憤ったルイズだが、彼の恋心の強さを知ってはルイズは金を与えた。そしてネリーはミモザ館に来た。だが、最初の対面からルイズとネリーは互いに敵意を感じた。ルイズはネリーこそピエールを己れから奪い、彼の身をこわす女だと見た。ネリーは、ルイズがピエールを恋しているのだと見た。だが、実際にこの頃のルイズのピエールに対する態度には母親としての気持ちだけでは理解し難いものがあるのだ。それからのルイズは、ピエールをかばい、彼を己れのために守るため凡ゆる心と手段を働かせた。その一方、浪費の生活に馴れたネリーは他に金持ちの知り合いを作って家を外に遊び歩いた。ピエールの懊悩が濃くなり、遂にネリーと共にミモザから別居する考えを抱いた時、ルイズはパリからロマニを呼んで、ネリーを此処から連れ去らせた。ネリーに去られたピエールは絶望と自棄に陥った。それは彼は主人の大金を使い込んでもいた。このピエールを救うためルイズは始めてカジノに足を踏み入れた。そして奇跡的にも大勝した。だが、紙幣の束を胸に抱いて彼女が家に戻った時、ピエールは毒薬を呑んで自殺していた。しかも、最後までネリーの名を呼び続けながら。その傍らで泣くルイズ。そして折から吹き入った強風に紙幣は室一面に渦をなして舞った。

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映画レビュー

4.5報われない愛の行方をドラマチックに描いた人間ドラマの重厚さが素晴らしい、フランス映画の運命劇の逸品

2022年1月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

1930年代のフランス映画が映画史上の黄金期に位置付けられるのは、洒落たタッチの軽妙な名人芸で魅了したルネ・クレール、ユーモアとペーソスを劇的に盛り上げたペシミズムのジュリアン・デュヴィヴィエ、豊かな感性で人間を包み込むように描いたジャン・ルノワール、そしてリアリズムでシリアスなドラマを構築したジャック・フェデーといった特徴の異なる名匠が揃って優れた作品を創作したからであろう。トーキー映画の表現法と不安定な政治状況を背景とした激動の時代に生まれたそれらの諸作は、より映画の役目と意義を持つことになる。
この作品は、そのフェデー監督の特質が、継母と息子の愛情を主題とした余りにも通俗的な家庭劇を、まるでワインの芳醇を味わうが如くの耽美主義に導いていた。確かな演出と巧緻な演技による重厚な人間ドラマの傑作である。養子を溺愛する母親ルイズに扮して、与える愛に苦しむフランソワーズ・ロゼーは、その心理を表現力豊かに演じて見事に尽きる。同時に好人物の主人ガストンを演じたアンドレ・アレルムの上手さも特筆したい。ロゼーの深刻な演技とは対照的に、明るく機知に富んだ人物を的確に表現していて、長く舞台で活躍したベテラン俳優と充分頷かせる。ドラマとして、これほどまでに演出と演技が溶け込みムードを高めているのは、滅多にないであろう。
舞台は南フランスの海岸に近い町。子供に恵まれなかった夫婦が少年ピエールを養子に迎え、幸せに暮らしていたミモザ館に、突如として刑期を終えた実の父親が現れ、ピエールを引き取りに来る。この場面のガストンの態度が一変するところが巧い。そこから10年の月日が過ぎてピエールはパリで荒んだ生活をしている。そのピエールにお金の工面をするルイズ。しかし、ピエールは賭博場の親玉ロマニの情婦ネリーに溺れる。この設定から繰り広げられるルイズとピエールとネリーの三角関係が、結局は破滅へと突き進む。なんと簡略化された俗っぽいストーリー。しかし人間の欲と愛の行方を捉えた展開を見せて、ラストシーンで魅せる愛の無常観が素晴らしい。運命的な人間ドラマを構築するフェデー監督の演出の巧さが、映画の完結性と劇的興奮を生んでいる。これこそ、この時代の映画の在り方であろう。

  1978年 11月17日  フィルムセンター

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Gustav
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