劇場公開日 1987年10月30日

「「憎しみが憎しみを生む」のリアル」炎628 hhelibeさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「憎しみが憎しみを生む」のリアル

2016年4月14日
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悲しい

怖い

知的

「サウルの息子」を観た後、同じように戦争を追体験できる映画を探していてこの映画を知り、「とにかく怖い」「トラウマになる」との情報をたっぷり仕入れて、相当の覚悟で観ました。
観終わった今、頭がズキズキして、フラフラしています。

サウル〜との共通点は多いです。
・ストーリーが主人公目線なので、主人公の知らない情報は一切語られない。
・主人公のアップが非常に多い。
・清算な場面や死体は極力見せず、見せるとしてもとてもさりげない。
・音がとてもリアルで恐ろしく、耳にこびりついて離れない。

ただ、サウル〜は最初からアウシュビッツという地獄の中ですが、この映画の主人公の少年は、最初はある程度平和な環境です。
たった数日のうちにナチス親衛隊により全てを失い、この世の地獄をこれでもかと見せられます。

戦争ごっこをして遊んでいる冒頭と、あらゆる地獄を経て完全に別人になってしまうラスト。
人の心が恐怖と憎しみでいっぱいになる過程が、少年の顔だけで分かります。

上にも書いたように、音がとにかく恐ろしいです。
主人公の少年と少女が爆撃を受けるという、この映画で初めて戦争が直接的に感じられるシーン。
ここで2人は耳をやられて、音がおかしくなります。
近くにいる人の声が聴こえない。
そして不穏な耳鳴りが止まらない。
この不穏な耳鳴りの音が、2人が笑い合っているような何気ないシーンにも暗い影を落とし、この先の恐ろしい出来事を予感させます。

強烈なラストシーンは、ナチスだけでなく、今世界中で起こっている内紛やテロ組織を思わずにはいられません。
「憎しみが憎しみを生む」なんて簡単に言うけど、それがいかにリアルな実態を伴わない言葉か痛感させられました。

床に並べられた人形、牛の目、空を漂う戦闘機、そして人々の叫び声……
きっと時々記憶の中から現れては、この世で実際に起こった絶対に忘れてはいけない蛮行を私に思い出させてくれることと思います。

hhelibe