劇場公開日 1999年6月26日

「邪悪の継承」ゴールデンボーイ(1998) 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0邪悪の継承

2013年1月6日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

怖い

知的

勝手にキング原作映画特集その11。
今回は秀作スリラー『ゴールデンボーイ』を紹介。

主人公トッドは成績優秀、容姿端麗、おまけに
文武両道という前途洋々たるハイスペック高校生。
ひょんな事から彼は、近所に住むある老人が、身分を偽って
ひっそりと暮らす元ナチス・ドイツ将校であること気付く。
トッドは「世間に正体を公表する」と老人を脅迫。そして、
秘密を守る事と引き換えにひとつの要求を取り付けた。

「あんたの知ってる、ぞくぞくする話を全部聴かせてほしい」

老人が語る恐ろしい行為の数々に魅せられていくトッド。
老人もまた、久しく忘れていた残忍な心を次第に取り戻し……

...

監督は『ユージュアル・サスペクツ』のB・シンガー。
ユダヤ人である彼は『ワルキューレ』『X-MEN』
でもナチ絡みの題材を扱っている。
また興味深い事に『X-MEN』でユダヤ人を演じた
I・マッケランが、本作では元ナチ将校を演じている。
最初は弱々しかった老人が、少しずつ
力強さと邪悪さを取り戻してゆく演技は戦慄必至。
軍服を着て足踏みするシーンなんて今思い返してもゾッとする。

また、トッドを演じたB・レンフロは、
端正な顔立ちも含めてドンピシャの配役。
流石にマッケランと演技を比べるのは酷だが、
思春期ならではの残酷さ、傲慢さがリアルだ。
聞くもおぞましい話に目を輝かせながら耳を傾ける
残忍さと、成績が悪化して両親に叱られる事を
死ぬほど恐れる無邪気さのアンバランス。
日本でも人気のあった彼が既に故人なのは本当に悲しい……。

...

思うに、人はもともと残忍さを有している生物だ。
善悪の判断がつかない子供は尚更のこと。
あなたのクラスにはいなかったろうか? 蝿の羽根を
むしったり、レンズで蟻を炙って遊ぶ同級生が?
倫理観を教え込まれない内は、猫が獲物を執拗に
なぶるのと同様、あれが残虐な行為だとは考えない。
いやむしろそれを承知で楽しんでいる節さえある。
恐ろしい話、残虐な行為には魅惑的な側面もあるのだ。
本作はそんな、人間の邪悪で後ろめたい部分を描いた物語。

ちなみに本作、原作とは結末がかなり異なる。
好みはあると思うが、僕は映画の結末の方が好き。
ある人物の残虐性が爆発する原作ラストも怖いが、
本作の不気味なラストはより後を引く。
なお、原題『Apt Pupil』は『優等生』
の意だが、『優秀な弟子』とも訳せる。
それを踏まえると、原題の不気味さも
幾らか増すと思うのだが、如何だろうか。

<了> ※2013.09初投稿

浮遊きびなご