風吹く良き日

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風吹く良き日

解説

地方からソウルに出てきたトッペ、チュンシク、キルナムは、互いを励ましあい、反発しあいながら生活していた。3人は人生に生きがいも希望ももてずにいたが、それぞれに思いを寄せる相手がいるため街を離れられない。そんなある日、チュンシクが傷害事件を起こしてしまい……。民主化運動が高まる1980年代、韓国ニューウェーブの第一人者イ・ジャンホ監督が、当時の若者たちのリアルな現実を描いたドラマ。主演は韓国の国民的俳優アン・ソンギ。日本では2011年「韓国ニュー・ウェーブ、再発見」にて劇場初公開。

1980年製作/113分/韓国
原題:Fine Windy Ddays
配給:太秦
劇場公開日:2011年6月18日

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映画レビュー

3.5アン・ソンギを知る韓流ファンなら、彼のルーツを知る上で一度は見ておくべき作品でしょう。

2011年6月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 どういうわけか、アン・ソンギのデビュー当時の代表的作品が、日本で続けて公開されることになりました。一本は韓国ニュー・ウェーブの代表的作品『鯨とり』でこれは先日レビューを書いたので参照してください。
 もう一本の本作は、アン・ソンギの出世作となった作品です。作品自体は二本とも、古き良き時代の松竹喜劇映画そのもので、現代のテンポの速い作品に見慣れた人なら、なんでこんな作品が当時韓国で大ヒットしたのか、首を傾げるかも知れません。
 しかし、当時の韓国の事情と今日の韓流シネマ興隆に繋がる「韓国ニュー・ウェーブ」が誕生した経緯を少しでもかじったなら、作品の底流に流れる開放感に浸れると思います。
 『鯨とり』のレビューでも触れましたが、長い独裁政権の間、韓国国民には表現の自由がありませんでした。また儒教のお国柄か、ベットシーンやラブシーンを描くのにもかなりの制約があったのです。
 本作では、アン・ソンギ演じる気弱で純情な青年トッペに、からかい半分で金持ちの令嬢が逆ナンパするシーンがあります。女性が男を口説くなんて、現在の韓国社会でもまだまだタブーとされるらしいのです。
 そのシーンだけでも、本作が青春群像劇を装いながら、古い価値観からの脱皮を模索した作品であることがわかります。

 また本作の重要な伏線は、韓国の急激な経済成長のなかでの歪みが、描かれています。台詞にも出てきますが、首都ソウルは元々人口1万人しかいなかったのが、この時代で既に800万人にも膨れあがっていたのでした。夢を掴もうともがく主役の3人は、みんな田舎からの御上りさんでした。そして3人共に、あぶく銭で翻弄されます。また3人の周りでは、地上げで土地を奪われた老人や、地上げに奔走して人生を狂わす不動産業者が登場します。
 きっと主役の3人は、この時代の同年代の青年の代弁者なのでしょう。夢を持って都会にきたものの、都会の厳しい現実に意気消沈しかかっている多くの地方出身者にとって、何も成し遂げないバカな3人の主人公たちは、身につつまされると共に、思わず感情移入したくなる愛しき存在に映ったに違いないと思います。

 なかでもアン・ソンギ演じるトッペは、田舎者というコンプレックスに加えて、吃りでした。令嬢にデートに誘われて、自分の気持ちがうまく言えないのです。それは当時の地方出身者も大なり小なり同じコンプレックスを持ち合わせていたでしょう。
 そのトッペがディスコで突如弾けるのです。当初は、ディスコダンスにたじろいでいました。でも、令嬢に馬鹿にされた怒りから、ふと故郷の踊りを思い出して、狂ったように踊り出すのです。『鯨とり』でもアン・ソンギは、物乞いの踊りを披露していました。きっと本作で味を占めたのかも知れませんね。それくらい、寡黙なトッペが快活に踊り出すシーンは印象的でした。このシーンを見た地方出身者の観客は、田舎の踊りでも充分に都会で張り合えるんだと溜飲を下したことでしょう。
 吃りの演技も素晴らしいし、弾け方も奔放で、新人ながらアン・ソンギは既に存在感たっぷりでした。そして、彼はこの作品がきっかけで、国民的俳優へと大化けしていくのでした。アン・ソンギを知る韓流ファンなら、彼のルーツを知る上で一度は見ておくべき作品でしょう。

 それにしても、本作からは韓国映画と韓国の社会は、日本との経済と文化の時間差に10年程度の遅れを感じます。韓国は軍事独裁政権を抜け出したあと、必至に日本に追いつき追い越せと、「坂の上の雲」を目指したのでしょう。
 本作は1980年の公開ですが、ちょうど日本ではATGが第三期の黄金期を迎えて、青春映画を量産していました。1974年に公開された『青春の蹉跌』と本作を比べると、同じような時代背景にありながら、シリアスさにおいて『青春の蹉跌』の方が、現代にも通用するリアルティを感じることができます。韓国映画もまた、戦後の松竹喜劇のような演出から、邦画をお手本にしつつも、ニュー・ウェーブの潮流を不動のものに押し上げていったのでしょう。

 韓国映画の歴史を感じさせてくれる作品でした。

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