劇場公開日 2004年7月17日

「練りこまれた秀作」茶の味 大川さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5練りこまれた秀作

2015年11月3日
iPhoneアプリから投稿

登場人物それぞれの、秘めた思い、エピソードをコミカルに描いて一つの皿に乗せる。

こういった作品は数多あるのだと思いますが、日本映画で成功している例は少ないと思います。

だいたいの作品は、監督のテイストで押し切ったり、こういうことってあるでしょ?でなんとなく済ませたり、ありがちなギャグの連続で濁したり。
まあ、こういう映画なんじゃない?笑えるしいいよね、そんなに深く観ないでよってな調子が漂ってて、観る方もじゃあいいんでない?これからも何卒よろしくお願いしますってなっちゃう。

それが、この作品に関していうと、一切妥協を許していない。
映像センスはもともとあるのだろうけど、特筆すべきは脚本のデキだろうと思う。

例えば、この一家はおそらく漫画、アニメーション業界のつながりで生まれたものなのだろうが、それは人物の会話で説明的に明示されているわけではない。各人のエピソードから徐々に視聴者に浸透させていくように、なるべく仕事の話。家族の話を直接的に出さないようにしている。おじいちゃんは業界ではけっこうすごい人なんだろうか?とかいろいろ想像させてくれて、キャラクターに厚みをもたせてくれる。

また、土屋アンナに恋する長男の描き方も秀逸。土屋アンナが囲碁部に入ると聞いて大喜びするのだが、彼は囲碁部に、在籍しているわけではない。親父と縁側で囲碁をやるシーンが一度挿入されているだけだ。この一つのシーンだけで、喜びを共有できるように巧みに脚本を構成している。安い監督なら間違いなく囲碁部に在籍している長男のシーンを描く。そのほうが安心だから。

シュールな作品と評されているけども、全然シュールじゃないですよ。脚本を隅々まで検討してる。マジメ過ぎなくらい。

大川