劇場公開日 1966年4月16日

ひき逃げのレビュー・感想・評価

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4.0復讐の狂騒曲、戦後からの時間

2023年2月19日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1966年。成瀬巳喜男監督。戦後の闇市で娼婦だった女は、今は旦那に死なれて5歳の子どもと暮らしている。やんちゃな子どもとなんとか生活していたが、ある日、子供が車にひかれて死んでしまう。運転していた男が自首して裁判も終わったが、ショックから立ち直れない女は、実は運転していたのは別の女だいう目撃者と会い、真相を探るうちに復讐を決意する、、、という話。
運転していた女がバイク会社の専務夫人であり、かつその車には女の浮気相手が同乗していた。真実を遠ざける社会的な力が二重に働いているわけで、それらの力が人々を縛ってさらなる悲劇を招く。
交通戦争が言われて久しい当時、事故で人生を狂わせる人々を描いた社会派映画と言える。復讐はズレながら成就してしまうのだから、単に一度抱いた信念が目的を果たすのではなく、狂わせられているのだ。白が飛んだ光のなかで復讐を夢想するシーンがいくつかあるが、その後に行われるそれぞれの実行シーンもちょっとずつズレている。必然的に、激しく車が行きかう道路で横断する人々を助けようと懸命な主人公の姿で終わるラストシーンは狂気そのものだ。そもそも、生きる目的を定め、その目的を更新しながらしつこく追求していく主人公(子ども→真犯人探索→復讐(次々に浮かぶ復讐の手口とその実行)→交通事故防止)の姿が狂気なのかもしれない。
バイク会社の専務が社内闘争をやっていたり、主人公の女や自首した運転手の過去が戦後から描かれ(口にされ)て戦後を意識化していたりと、さすが成瀬監督というほかない。

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