暖簾

劇場公開日:

解説

山崎豊子の原作を劇化した菊田一夫の戯曲を、さらに「負ケラレマセン勝ツマデハ」の八住利雄と川島雄三が脚色、「女であること」の川島雄三が監督、「口から出まかせ」の岡崎宏三が撮影した文芸映画。主演は「恋は異なもの味なもの」の森繁久彌、「四季の愛欲」の山田五十鈴、「弥次喜多道中記」の乙羽信子。

1958年製作/123分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1958年6月15日

ストーリー

八田吾平が、たった三十五銭をにぎって淡路島から大阪へ飛び出して来たのは十五歳の時のこと。ふとしたことから昆布屋の主人、浪花屋利兵衛に拾われてから十年、吾平は大阪商人の土性骨とド根性をいやというほどたたき込まれた。吾平が二十五歳の時、主人利兵衛から暖簾を分けられた。先輩の番頭をさしおいて。吾平の夢はふくらんだ。丁稚の昔から何くれとなく心をつかってくれるお松と一緒になれると思って。ところが、利兵衛は、吾平を見込んで姪の千代を押しつけて来た。これには吾平も驚いたが、ついに千代と結ばれた。しかし利兵衛が見込んだだけあって千代は立派な嫁であり、吾平も頑張った。昭和九年、すでに吾平も一人前の昆布商人になっていた。ところが、ようやく飛躍しようとする矢先、台風と水害が襲った。しかしこれも千代の助けで、「暖簾は大阪商人の魂だす、これ程確かな抵当はおまへん」という吾平の捨て身の交渉で銀行からの融資がつき、切り抜けた。それから十年、わいの女房が自由にならへんのと同じやとぼやく吾平を尻り目に、戦争はすべてを奪い去った。敗戦--今は荷受組合の役員としてわずかに昔をしのぶ吾平の前に、もっとも頼みにしていた長男の辰平は再び現われなかった。しかし、思いもかけぬ呑気坊主の次男、孝平の活躍で株式会社浪花屋は再建された。商売のやり方が当世風に華美なのが吾平には気に入らなかった。しかし華々しく浪華屋の店開きがあった日、突然の病魔に倒れた吾平の頬には微笑がただよっていた。あたかも、客を迎えるかのように--。波瀾に富んだ吾平の一生は終った。しかし、暖簾の伝統は強く受けつがれるだろう。

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映画レビュー

5.0ユーモアありホロリと涙ありで楽しく観れます さすが名監督川島雄三監督の傑作です 一切退屈しません

2021年10月6日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

素晴らしい傑作!
森繁久彌はじめ山田五十鈴、中村鴈治郎、浪花千栄子といった大名優ばかり
若手でも乙羽信子、中村メイコ、扇千景なんですから!
それを名監督の川島雄三が撮るのです
しかも原作は、あの山崎豊子です
これで面白くない訳がありません!

不朽の名作を数多く書いた、山崎豊子の作家としての出発点がこの暖簾です
山崎豊子が、まだ新聞記者だったアマチュア時代に書いた生原稿が、森繁久彌の目にとまり直ぐに芝居となり、映画化され、小説化され出版されるに至ったものです
山崎豊子の実家は超有名な老舗昆布店の小倉屋山本、それがモデルということです
主人公吾平の娘年子が、山崎豊子本人の事のようです

お話の内容は、簡単で言えば大阪の老舗昆布屋に15歳で住み込みで入り、懸命に働いて暖簾分けを許されて、暖簾を守り、暖簾を誇りに大事にして店をより大きくすることを生きがいとした男の一生です

商都大阪船場を同じく舞台にしている、花登筺の「番頭はんと丁稚どん」は1959年の放映なので、船場商人のど根性と土性骨のドラマの先駆けかも知れません
現代の目から見れば、冒頭の丁稚時代のシーンはパワハラのオンパレードですが、当時の高度成長期の大衆には当然と受け入れられた世界です

そして暖簾分けの条件でついてきた、山田五十鈴の演じる気の強い嫁との夫婦の愛情物語でもありました
暖簾の重みという価値観を同じくして、仕事の内容も良く理解していて、夫の言うことに賛同したり、尻を叩くこともあれば、反対意見も断として言う
亭主のいいなりにはならない女房です
しっかり過ぎる程の女房です
しかしこんな女房がいてくれるからこそ、男は何もかも忘れて仕事に打ち込めるのです
好き合ったお松ちゃんと結婚した方が、楽しく毎日を暮らせたかも知れません
しかし主人公の吾平を大きく成長させ、成功させ得たかというと分かりません
幸せな生活でもこじんまりとした人生で終わってしまったかも知れません
それこそ丁稚仲間の定吉のようになっていたかもしれません
自分もそれなりの歳になって、今なら分かるようになりました
貰うなら千代の様な女房です

山田五十鈴は藤原直美を少しいい女にしたらかくやという風情
新婚初夜のシーンは名シーンです
続く夜鳴き屋台のうどん屋で先に食べ終わった亭主の丼に、自分のしっぽくの具をさり気なく入れるシーンが可愛らしくて心に残ります

ユーモアありホロリと涙ありで楽しく観れます
一切退屈しません

お話は明治の中頃の大阪からはじまります
15歳から老舗にはいるいきさつを見せて、監督の名前がでて20代半ばとなり本格的にスタートです
暗転して暖簾をくぐって青年になった主人公がアップで登場する演出は見事です
後半は戦後編となり、息子の孝平が物語の中心に替わります
主人公と、息子を森繁久彌の一人二役でこなします
時にひとつの場面に親子で二人の森繁久彌が登場するシーンもあります

お松ちゃんの娘、静子役の扇千景の美しさったらありません!

冒頭の橋の構図から監督の気合いの入り方がわかります
前半の今宮戎の群衆シーンも圧巻
1934年の室戸台風と思われる暴風雨シーンは特撮まで駆使して迫力あります
演出の素晴らしさと的確さを端々で感じます

川島雄三監督40歳の作品
これほどの傑作を次々と撮りながら監督は3年後急逝されてしまうのです

特典映像の撮影光景を観ると実に若い青年監督だと驚きます

長く生きておられたなら、私達はきっと世界的な映画賞に輝くような作品もみれたはずだったのに本当に残念なことです

本当の大阪弁が耳に心地よく、流れるようにすーっと胸の奥に入っていきます
特に今の住所表記なら東心斎橋になる千年町に生まれた山田五十鈴のイントネーションはネイティブなので完璧です
幸せな気持ちになりました

現代では、もうこのような言い回しをしなくなった言葉が山のように沢山聞くことができます
ああ、おばあちゃんやおじいちゃんがこのような言い方をしてた!と古い記憶と懐かしさで胸が一杯になる人も多いと思います

大阪一番の商店街心斎橋を歩いて中程になると昆布の良い匂いがしてきます
でもそれは松前屋です
小倉屋山本は長堀通りを北に越して、御堂筋を西に入った南船場で、そこに今もあります

というか劇中で登場するように梅田の阪急百貨店とかで買うことが殆どですね
大阪人に老舗の木箱入りの高級塩昆布を贈ると、テンションが上がって大喜びしてくれます
是非お試し下さい

小倉屋山本のえびすめは大阪の人間なら誰でも知っているブランド高級品です
東京赤坂の虎屋の羊羹みたいな位置付けです

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