野火(1959)

劇場公開日:

解説

大岡昇平の原作を、「鍵(1959)」のコンビ和田夏十が脚色し、市川崑が監督したもので、レイテ島を舞台に飢餓に追いつめられた兵隊を描いたもの。撮影は「代診日記」の小林節雄。

1959年製作/104分/日本
原題:Fires of the Plain
配給:大映
劇場公開日:1959年11月3日

ストーリー

曹長はなぐった。再び病院へ帰れと命じた。田村一等兵はのろのろと歩き出した。それは死の宣告に等しかった。病院からも追い出されたばかりだ。どこにも行く所がないのだ。--比島戦線、レイテ島。日本軍は山中に追いこまれていた。田村は病院の前に寝ころぶ同じように原隊から追われた連中の仲間に加わった。彼らが厄介ばらいされたのは、病気で食糧あさりに行けないからなのだ。安田という要領のいい兵隊は、足をハラしていたが、煙草の葉を沢山持っていた。永松という若い兵が女中の子だというので、昔、女中に子を生ませた安田は、彼を使うことにした。翌日、病院は砲撃され、田村は荒野を一人で逃げた。海辺の教会のある無人の町で、田村は舟でこぎつけてきた男女のうち女を射殺してしまう。恐怖からである。そこで手に入れた塩を代償に、彼は山中の芋畠で出会った兵たちの仲間に入った。彼らは集結地という、パロンポンを目指していた。すでに雨季がきていた。密林の中を、ボロボロの兵の列が続いた。安田と永松が煙草の立売りをしていた。--オルモック街道には、米軍がいて、その横断は不可能だった。山中で、兵たちは惨めに死んだ。幾日かが過ぎ、田村は草を食って生きていた。--切断された足首の転がる野原で、彼は何ものかの銃撃に追われた。転んだ彼を抱き上げたのは、永松だった。永松は“猿”を狩り、歩けぬ安田と生きていたのだ。安田は田村の手榴弾をだましとった。永松の見通し通り、安田はそれを田村たちに投げつけてきた。彼が歩けぬのは偽装だったのだ。二人に安田が仲直りを呼びかけてきた。永松の射撃で、安田は倒れた。永松がその足首を打落している時、何かが田村を押しやり、銃を取らせ、構えさせた。“待て田村、わかった、よせ”銃声とともに、永松はそのままくずおれた。田村は銃を捨て、かなたの野火へ向ってよろよろと歩き始めた。あの下には比島人がいる。危険だった。が、その人間的な映像が彼をひきつけるのだ。その時、その方向から銃弾が飛んできた。田村は倒れ、赤子が眠るように大地に伏したまま動かなくなった。すでに、夕焼けがレイテの果しない空を占めていた。

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映画レビュー

5.0生の渇望と絶対的孤独

2023年8月15日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

怖い

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しゅうへい

4.0飢え・・・

2021年3月24日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 塚本版を先に見てしまったために、どうしても比較してしまう。塚本版よりもセリフが多くて、手榴弾の件などわかりやすい。逆に考えると、塚本版の方が映像だけで見せるところが多かったってことか。エピソードも細かなところでそれぞれ違う。

 残念なのは永松(ミッキー・カーティス)の演技だろうか。フィリピン現地人が田村に撃たれるところも失敗の演技。

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kossy

3.5本当の戦争映画

2020年8月15日
iPhoneアプリから投稿

レイテやインパールを代表に戦地の兵士は地獄だったであろう。真の日本兵の姿を観た気がします。素晴らしい作品と思います。

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kenyan

4.5傑作ですがあまりにも重いです

2020年8月8日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

地獄絵図

絵本 地獄――千葉県安房郡三芳村延命寺所蔵
という大判の絵本があります

そのお寺に所蔵されている十六幅の絵巻をもとに構成したものだそうです
1784年(天明四年)、江戸の絵師によって描かれたものとのこと

40年程前に発行され、一時期ブームにもなりロングセラーを続けているそうです
今もAmazonでも買えます

まさにその絵本の中の地獄の光景が展開されます
というより、この絵本を映画化したものだったのではと思ってしまう程です

その中にこのような一節があります

三途の川をわたり、閻魔大王の前に出て、針地獄の宣告を受ける五平。
「こんどだけは生きかえらせてやろう。だが、おこないをあらためなければ、このつぎこそ地獄だぞ。地獄がどんなところか、とっくりとみせてやろう。
もとの世にかえって、みなのものにはなしてやるがよい……」

この閻魔大王の言葉が本作のテーマです

戦争は華々しい栄光の物語もあります
一方、勝敗は裏表です
負けた時の悲惨、敗者の無惨、地獄絵図
これもまた戦争の一面です
その両方を観て、私達は戦争という恐ろしい現実を知らねばなりません

なぜなら国家や民族の自立と独立の為にはやらざるを得ない事態もあり得るからです
より一層の地獄絵図を子々孫々にまで残すことになるからです

希望的観測、教条的イデオロギー、夢想的空想的な平和主義・・・

そんなものが戦争を引き起こすのです
私達は徹底的にリアリストで在るべきなのです

究極の反戦映画であるのは間違いないでしょう

しかし本作はそこをさらに超えて、人間とは何か、どう生きるべきかにまで踏み込んでいます

傑作ですがあまりにも重いです

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