劇場公開日 1956年7月31日

「愛の不合理」洲崎パラダイス 赤信号 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

2.0愛の不合理

2015年4月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

悲しい

どうしようもなくだらしのない男を描いた川島雄三の作品。
元女郎の女に腰巾着のごとくついて回る三橋達也がとことんダメ男を演じる。女の稼ぎをあてにしているくせに、その女が他の男に色仕掛けをすると妬くという、稼ぎも度量もない男である。
舞台は東京東部に実在した歓楽街洲崎パラダイス。現在の江東区東陽一丁目がもともとそう呼ばれる赤線地帯だったらしい。地下鉄東西線沿線に長く住んでいながら、そんなところに遊郭があったことは知らなかった。
その区域の手前には川が流れ、堅気の世界とは橋一本で繋がっている。
そして、この物語はその橋のたもとにある場末飲み屋。その世界の入り口にあるということで、あちらとこちらとの境目でドラマが繰り広げられるわけだ。再び遊郭の仕事をするのか、それとも堅気の世界に踏みとどまるのかという主人公二人の状況を、その場所が象徴している。
男の扱いに器用なようでいて、結局三橋を放ってはおけない新珠三千代。家族を置いて出たっきりの夫を待ち続ける轟夕起子。馬鹿にしているはずなのに三橋を励まそうとするそば屋の若い娘・芦川いづみ。女たちはみな不合理な愛を胸に男を待つ。いや愛などすべて不合理なものなのだが。
男たちと言えば、それぞれがその愛に頼り切っているばかりである。みんながぎりぎりのところに留まってお互いを必要としている。男と女とは本来そういうものだ。そんな世界では、文字で表記されるプロフィールに惚れる現代的な恋愛事情など狂気の沙汰であろう。

佐分 利信