人生劇場 飛車角と吉良常

劇場公開日:

解説

尾崎士郎の原作『人生劇場・残侠篇』を、「代貸」棚田吾郎が脚色し、「宮本武蔵 巌流島の決斗」の内田吐夢が三年ぶりに監督した。撮影は「裏切りの暗黒街」の仲沢半次郎。

1968年製作/109分/日本
配給:東映
劇場公開日:1968年10月25日

ストーリー

大正十四年。八年ぶりに上海から故郷に戻った吉良常は、亡き主人青成瓢太郎の子瓢吉を尋ね、東京に出た。瓢吉は文士になるため勉強していたが、中学時代の恩師黒馬と同居していた。吉良常も瓢吉の家に腰をおろすことになった。その頃、砂村の小金一家と貸元大横田の間にひと悶着が起った。飛車角が大横田がやっているチャブ女おとよを足抜きさせ、小金一家に匿ったからである。飛車角は宮川や小金らと殴り込みに加わり、大横田の身内丈徳を斬って勝利を収めた。しかし、飛車角は兄弟分の奈良平が裏切っておとよを連れ出したことから、奈良平を斬った。そのため飛車角は巡査に追われ、瓢吉の家に逃げ込んだのだった。留守宅を護っていた吉良常はすぐさま何が起ったかを悟る。詮索せずに酒を勧める吉良常に飛車角は感謝し自首することを決意するのだった。小金の計らいでおとよに会える算段が整えられていたが飛車角は会わずに自首する。しかし、おとよはそのまま行方をくらましたのである。四年の歳月が流れた。宮川は玉ノ井の女に惚れ、毎日通っていた。宮川の知らないことだったが、それはおとよだった。仲間はそれと知って忠告した。小金一家にとって飛車角は大恩人なのだ。しかし、おとよに惚れ込んだ宮川は二人で逃げようとしていた。一方、吉良常はおとよに、飛車角に面会に行くよう勧めた。だが、おとよの心はもう飛車角にはなかったのだ。苦悩するおとよは、瓢吉の青春の想い出となったお袖と共に姿をくらました。やがて飛車角が特赦で出所した。すでに小金は病気で世を去り、丈徳の跡目を継いだデカ虎に寺兼も殺されていた。そのころ瓢吉は懸賞小説に当選し、大陸に渡ることになった。吉良常は、瓢吉が男として名を上げるまで墓は建てるな、と遺言して自殺した瓢太郎のために、今こそ墓を建てる時だと思って飛車角と共に吉良港に発った。飛車角はそこの旅館でおとよと再会する。溢れる気持ちでいっぱいとなった二人に吉良常は「昔は昔、今は今と言うことにして角さんを気持ちよく酔わせてやってくれ」と優しく助言するのだった。その晩海に入水しようとするおとよを飛車角が止める。そしてそのまま二人は感極まり抱き合う。吉良常は長年の疲れで病床に伏し、やがて瓢太郎かたみのピストルを銀杏の梢に向けて撃ちつづけながら、その生涯を閉じたのだった。その折り、飛車角を丈徳の仇を狙うデカ虎、そのデカ虎を狙う宮川も吉良港にやってきた。宮川は単身、デカ虎が草鞋を脱いだ杉源一家に殴り込みをかけ、全身を斬りきざまれながら果てた。そのことを知った飛車角は杉源一家とデカ虎と渡りあい宮川の仇を討ったのだった。飛車角は宮川の死体をおとよに託すとただ一人、立ち去って行った。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

3.5絶えず入れ替わる語り手

2023年2月6日
iPhoneアプリから投稿

高倉健・鶴田浩二という東映の2大スター俳優のセンセーショナルな邂逅が目玉の「人生劇場」を、『土』『血槍富士』『飢餓海峡』の内田吐夢が新解釈で撮り上げた一作。

戦前の名作『土』を見れば明らかなように、内田吐夢は常に社会の最下層にわだかまる無名の人々にアイレベルを合わせてきた。その点ヴィットリオ・デ・シーカやサタジット・レイあたりの悲壮なリアリズム映画と共通するものがある。

ただ、本作はあくまで「東映任侠映画」であり、ゆえに『土』のようなあからさまなリアリズムとは遠く隔たっている。登場人物たちの性格もかなり戯画的だし撮影も基本的にセットだし、いかにも劇映画といった具合の体裁だ。

そうした中で「内田節」はどのように発露されているのか。注目すべきは劇中の「語り手」ポジションの目まぐるしい変容だ。飛車角と吉良常、とはタイトルにあるものの、物語の牽引役はその都度都度で入れ替わる。

中でも面白いのは、飛車角が投獄されている間におとよが知らず知らずのうちに彼の義兄弟である宮川といい関係になってしまうくだり。すべてに絶望したおとよを救うべく立ち上がったのは、同じ遊郭に勤めるお袖。この今までちっとも表に出てこなかった登場人物は、いきなりおとよの腕を掴むと、そのまま二人で東京から出奔してしまう。

任侠映画でありながらその周縁の人々にも等しく語り手としての権能を与えるというノンフィクショナルな演出には、彼の生来のリアリズム志向が反映されているといえるだろう。

最後の殺人シーンで突として画面がモノクロに切り替わるのも印象的だ。飛車角は並み居る敵を次から次へと斬り伏せていくが、その太刀捌きはひどく人間離れしている。まるで明晰夢の中を自由自在に動き回る夢の主人を見ている心境。そしてそれを強調するかのようなモノクロ画面。

敵の首魁を討ち取ると、モノクロがカラーに戻り、飛車角はおとよと共に闇の中へ消えていく。彼らの行き先の闇は赤と紫の入り混じったなんとも異常な色彩をしている。果たして本当に夢は明けたのか明けぬのか、それともそこは既に死者の世界なのか。曖昧模糊で不可解な感触を残して映画は幕を閉じる。

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因果

3.5任侠オペラ雛形シリーズの完成形

2014年12月4日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

泣ける

興奮

知的

人生劇場飛車角の1963を何度か観た。他の人生劇場シリーズは観たことがないのだが、この二作を知る限り比較しながら観た。

基本的なプロットは同じだが、この1968制作の飛車角と吉良常は内田吐夢が監督。あの『飢餓海峡』を撮った後だという。

同じ話を何度も映画化していて俳優さんもすこし変更しているがだいたい同じ面子。それでも客がはいった時代。芝居小屋でみるお芝居が映画になった感覚だろうか。そんなオペラ的ともいえるヤクザものの芝居だから客もつぎにどのような展開になるかわかっていて観ている筈。
後半宮川と飛車角を小金の墓前でひきあわせるなど、1963版よりも演出が洗練されてかなり見やすくなったように感じた。

とはいえ5年前の鶴田も高倉ももうすこし色っぽい印象だったのだが。ノリノリでやってる辰巳柳太郎がいい。ヒゲも程よく白くなっていて様になっている。
全体的に俳優たちのモチベーションというかエネルギッシュさがつたわってくるのは1963の飛車角のような気もする。が、改良はされているのもよくわかる一本だ。1963のラストシーンはノワールぽい終わり方だったので後味がかなり悪かったが、これはもうすこし観やすい。

暇があればヤクザ映画の原点、人生劇場シリーズを見比べてみてはいかがだろう。

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