巨人と玩具

劇場公開日:

解説

文学界所載開高健の同名小説を、「結婚のすべて」の白坂依志夫が脚色、「氷壁」の増村保造が監督、同じく「氷壁」の村井博が撮影した異色ドラマ。主演は「命を賭ける男」の川口浩、「氷壁」の野添ひとみ、「大阪の女」の小野道子、高松英郎。色彩はアグファカラー。

1958年製作/95分/日本
原題:Giants and Toys/The Build-Up
配給:大映
劇場公開日:1958年6月22日

ストーリー

都心のある大きな駅の出口から、今日も群衆が無限に吐き出される。--駅前広場にはサムソン製菓のビルがある。その宣伝課長は合田という男で、宣伝の鬼といわれていた。宣伝課員の洋介は彼の敏腕を尊敬していた。--キャラメルの売りあげ高が悪くなった。宣伝に新手を考えだす必要に迫られた。京子という少女を合田が拾ってきた。虫歯だらけのありきたりの小娘だ。ペロッと出す長い舌と、驚いたような笑い顔が変っていた。洋介の大学の級友横山は競争相手のヘラクレス洋菓宣伝部にいる。もう一つのアポロ製菓の宣伝課員倉橋雅美に、彼は洋介を紹介した。二人は愛しあった。京子のカメラ・テストの結果、彼女はネガ美人であることが判った。写真家の春川は彼女の一日を撮すと、それをあるカメラ雑誌に発表した。ジャーナリズムが騒ぎだした。週刊誌、ラジオ、ファッション・ショー……。これらすべての売り込みの後には合田がいた。彼は社のトレード・キャラクター決定会議を自分の思惑通りに運び、京子を使うことを重役連に承諾させた。いよいよ特売合戦だ。京子は今まで勤めていたボロ会社を止め、宇宙服を着て、ポスターやテレビで笑い始めた。虫歯がかえって効果的だった。ヘラクレスは動物の景品、アポロは地味だが母親に説得力のある奨学金。アポロが一頭地を抜いた売り上げを示した。しかし、アポロ・ドロップスに子供が中毒する事件が起った。サムソンはその足をすくうように大増産を始めた。まるで空巣狙いだ。合田は義父の矢代部長を追いやり、自分が部長になった。しかし莫大な宣伝費にもかかわらず、キャラメルはちっとも売れない。京子は洋介に前からずっと好き、恋人になってと言ったが、彼は断った。小売店が乱売を始めた。景気づけに宇宙展の会場に京子を配することに、合田は決めた。呼ばれてきた京子は以前の少女ではなかった。気取った歩き振りの、飾りたてた女であった。彼女の両親も長屋を引っ越したという。京子は合田の申し出を断った。契約にそんな箇条がないからという。合田は洋介に彼女を色仕掛で抱きこめと命じた。同時に彼は疲れから吐血した。西は京子の歌っている劇場に行き、そこで親友横山が彼女の黒幕、マネージャーになっているのを知った。今さら、京子を連れて来て何になる。叫びわめいてどうだというのだ。“怪物”の中で消化されて機械のように無慈悲な人間になるだけだ! 洋介は会社へ帰ると合田をののしり、彼を尊敬していたのを口惜しく思った。彼はやにわに宇宙服を着ると、雨の中を外へ出た。近づいてきた雅美に目もくれずに。その奇妙な姿を、合田がサムソン・ビルの窓からじっと見送っていた。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

4.0映像感覚は60年代、70年代を思わせるようなモダンさがあります

2020年2月4日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

むろん巨人は資本主義社会のこと
玩具は京子に西が言い放つように、それに使われ翻弄される人民を表しています
だからと言って単純な社会主義的な主張の映画ではありません

窓の下の大通りでライバル会社の宣伝カーの前をジグザグデモを行うデモ隊がすすんでいます
しかし、それは主人公にも学生時代の友人であるライバル会社の社員にも目には入ってはいません

その友人と学生時代を懐かしんで歌声喫茶に行くが、もはやナンセンスしか感じられない

1958年公開の映画です
だからむしろ60年安保闘争に向けて社会主義運動は昂進していた頃です

一方、経済は1955年からの神武景気に始まる高度成長期に突入している時代です

ここに現実があります
社会主義運動よりも資本主義の苛烈な競争に日本人は飛び込んでいったのです
権藤課長のように、血反吐を吐いても働かないと食っていけないのが日本なのです
日本だけじゃないでしょう
世界中、より良い暮らし、収入を得るにはこうするしなないのです

だから60年安保闘争の前にも関わらず、冷めた視線がデモ隊と歌声喫茶に向けられていたのです

といって資本主義への視線にも厳しいものがあり、むしろ表面的には資本主義への批判の映画となっています

では本作は何を主張しているのでしょうか?
社会主義にも資本主義にも理想的な世の中なんてない
苦しくたって、嫌で嫌で仕方無くても、夜の繁華街をサンドイッチマンをして練り歩かないといけないのです

もっと笑顔で!

ライバル会社の女性が声をかけてくれます
そう、それこそそんな運命を西のように受け入れて働いていくしかない私達へのエールなのです
それが本作のテーマなのだと思います

50年代の映画であるのに、カラーワイド
しかもその映像感覚は60年代、70年代を思わせるようなモダンさがあります
ヒロインの京子の造形は70年代のものと思えるほどの先進性です

衣装や美術のセンス、プロダクションデザインは大変高いものもので驚嘆します
島京子の普段着は白のTシャツとジーンズでした
まるでそこだけ現代のようです
宇宙服のデザインも単なる本物風では無く、デザインのセンスの高さが感じられるものです

1967年のジャック・タチ監督のプレイタイムと同じような味わいを感じました

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あき240

4.0キャラメル会社の話だけど非常にビター味

2020年1月11日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

1958年大映。以前に名画座で観たが再見。初期から増村保造監督の演出はスピーディーでモダン。やっぱ好きだなぁ。

主人公は企業内で必死にもがくサラリーマン。昭和30年代の文化がたっぷり見れるが、社畜姿は今とまるで変わらない。課長が述べるメディア論も現代に通じる。鋭すぎ。
ヒロインの野添ひとみの明るさも今日的なキャラだ。(土人の歌シーンの前時代感凄いけども)

テーマはありきたりではあるが、語り口とグルーヴが特異で全く古さを感じない。むしろ新しさがあると言っていい。
多くの現代人に見て欲しい傑作。

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共感した! 3件)
散歩男

3.5今も昔もサラリーマンは血を吐くほどつらいよ

2019年2月26日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

興奮

キャラメルを主力商品とするある製菓会社は売り上げに伸び悩み、宣伝部はますます渇を入れられる。
宣伝部は街で拾った女の子をモデルに起用。虫歯が目立ち、格別美人でも可愛くもないが、自然体の魅力で人気者になる。
が、キャラメルの売り上げは一向に伸びず…。

1958年の作品。
高度経済成長期真っ只中。
それを窺えるモーレツ・サラリーマン映画。
増村監督の演出はテンポよくエネルギッシュではあるものの、今見ると古臭くステレオタイプではあるが、テーマは現代にも通じる。
過剰な商品宣伝、ライバル会社との競争、人気者になって天狗に…。
宣伝マンにはプレッシャーがのしかかり、胃が痛くなる。例えではなく、本当に血を吐くほどに。

見る前はもっとコミカル要素あって、痛快なサラリーマン映画かと思ったが、違った。
モーレツでもなく、痛烈な社会風刺サラリーマン映画だった。

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近大

4.0いい映画だった!

2016年7月21日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
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共感した! 1件)
とば
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