岸壁の母

劇場公開日:

解説

第二次大戦の戦地からいまだ帰らぬわが子への思いを切々と歌った二葉百合子の同名のヒット曲の映画化で、幾多の悲しみを乗り越えて、ひたすらわが子の帰りを待ち続ける母の姿を描く。脚本は「テキヤの石松」の村尾昭、監督は「二十歳の原点」の大森健次郎、撮影は「お姐ちゃんお手やわらかに」の市原康至がそれぞれ担当。

1976年製作/93分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1976年12月11日

ストーリー

昭和六年、函館。いせは、幼い息子の新二の手を引いて東京を目ざして列車に乗った。夫と死別したいせを、無理やり再婚させて家から出し、一人息子の新二を跡継ぎにしようとするいせの稼ぎ先きの小松家の国造の企みから逃れるため、いせは意を決して新二とともに家を飛び出したのだ。母子二人の、貧しいが楽しい東京の生活が始まった。昼は家政婦、夜は針仕事。いせは、新二との生活を守るために必死で働いた。そんないせの体を、知らないうちに病魔がむしばんでいた。治療を受けようとするいせに、下宿の大家は部屋代が払えないならすぐに出て行けと冷たく言う。針仕事をもらっている仕立屋の主人も、妾にならないかと露骨にいせに迫る。すっかり疲れ果て、気が弱ってしまったいせは死を決意して、新二とともに家を出た。夜道にたたずむ二人の様子を見ていた屋台の主人弥助は、残りものだといって二人に支那そばをおごる。「人間、死んじゃつまらねえよ。生きてりゃ、いつかきっといいことがある」。いせは、必死に働いた。母子のかたすみの幸せと離れたところで、時代は激しく動いていた。昭和十六年十二月八日、日本は大東亜戦争に突入した。新二は中学生になっていた。剣道部に入った新二は、対校試合の夜、先輩の三村に徴兵がかかったことを知らされた。知らせに来たのは、三村の妹の靖子だった。日増しに激しくなる戦火をぬって、二人はたびたび会うようになった。新二は、靖子との結婚を決心した。明るく輝く若い二人の顔を前にして、いせは言葉をなくした。いたたまれぬおもいで、いせは家を飛び出した。後を追って来た靖子の声に振り向いたいせは、胸のおもいを断ち切って、二人の将来を祝福した。手を取り合って家に帰るいせと靖子。その二人を新二が呆然として迎えた。「来たよ」。新二は二人に、いま来たばかりの赤紙を見せた。夜の海岸を新二と靖子は歩いた。「靖ちゃん、結婚はぼくが帰ってからにしよう」。こう言って、新二は靖子を激しく抱き寄せた。母と子は最後の夜を静かに過した。「母さん、もしぼくが戦死したらどうする」。いせは、きっぱりと答えた。「その時は、母さんも死にます」。翌朝、新二は靖子や近所の人に送られて出征した。鉄橋を渡る汽車の窓から、新二はいせの姿を捜していた。「母さん!!」。一足遅く鉄橋にたどりついたいせもまた、大声で遠去かる列車に叫んだ。「新ちゃん!! 新ちゃん!!」。東京は連日、B29による激しい爆撃にさらされていた。いせは、戦地から送られてくる新二のたよりを唯一の支えにして生きていた。そんなある日、爆撃の中で靖子が死んだ。--終戦。玉音放送を息をつめて聞いていたいせの口から、思わず言葉がもれた。「新二が帰って来る!」。それからの毎日、いせは復員兵でごったがえす品川駅に通い続けた。しかし新二は帰って来ない。いせはある日、新二の戦友から新二が満州で戦っていたことを知らされた。満州。それなら新ちゃんは舞鶴に帰って来るはずた。昭和二十四年、舞鶴。ここ舞鶴港は引揚げ船と、それを迎える人々でごったがえしていた。新二の写真を持ったいせは、血まなこになって復員兵の列に呼びかけた。「新二ッ!! 新ちゃん!!」。次のランチ。そして次のランチ。新二はついに帰って来なかった。昭和三十一年。ソ連からの最後の引揚げ船といわれる興安丸にも、新二の姿はなかった。さらに年月が流れて、--今日もまた、いせは変らぬ姿で岸壁に立っている。無造作に束ねた白髪まじりの髪、小さな細い肩。しかし輝く瞳は希望の光をたたえて、水平線の彼方をみつめている。この母にとって、戦争はいまだ終っていないのだ。--ああ風よ、心あらば伝えてよ、愛し子待ちて今日もまた、岸壁に立つ母の姿を。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

3.5息子は死んじゃいません!

2020年7月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

端野いせ原作。あらすじは上記の通りで、二葉百合子の歌を知っていればおおよそは見当はつく話。

そうはわかっていた。しかしね、中村珠緒の熱演を目の当たりにしたら泣けて仕方がなかった。
嫁家を飛び出し、女手ひとつで育て上げた愛息への情。挫けそうになりながらも手を差し伸べてくれる隣人たち。そんな息子の戦地からの帰りを待つ母の思いがひしひしと伝わってくる。
いつになっても待ち続ける母の強さ、悲しさ、一途さ。その一念のすさまじさ。人は死んだら彼岸に渡るという。母が立つ埠頭は、その向こう岸を遠く眺める此岸なのではないかと思えた。

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栗太郎
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