悲しみは女だけに

劇場公開日:

解説

新藤兼人が民芸の舞台にのせた「女の声」の映画化で、「海の野郎ども」に引続き自ら脚色、監督したもの。撮影は「東京の瞳」の中川芳久。主演は「有楽町で逢いましょう」の京マチ子、「地上」の田中絹代、「東京の瞳」の船越英二、「負ケラレマセン勝ツマデハ」の望月優子。更に杉村春子、乙羽信子、小沢栄太郎、水戸光子、宇野重吉、市川和子などが出演している。

1958年製作/105分/日本
劇場公開日:1958年2月26日

ストーリー

--尾道。船員相手のあいまい飲食店“波千鳥”の主人政夫の、姉の秀代がアメリカから三十年ぶりに歸ってきた。政夫の後妻くに子、先妻の子浩、芳子や秀代の妹春江が、迎えに集った。浩は岡山の鉄道局に勤めるサラリーマン。女房子がある。芳子は比島人のボクサーと結婚し、子供が一人ある。後妻のくに子を馬鹿にし、母と呼ばない。春江は産婆で、原爆に会ったが生き残り、再婚している。秀代を囲んで一同が向い島の両親の墓へ詣でた後、政夫の長女道子が半年ぶりに神戸から帰ってきた。その夜、盆踊りの稽古ばやしの聞こえる奥座敷で、秀代は皆にアメリカでの苦労を話した。秀代は、傾きかけた家のために、六千円の結納金目当てで、見知らぬアメリカ移民の花嫁として渡米したのだ。が、帰ってみると、家屋敷はすでに人手に渡り、何のために、ずっと送金していたのか判らなかった。その弁解を浩がし、道子が冷かし、政夫がやめろとどなり、一座は気まずく沈黙した。浩も芳子も秀代のアメリカ土産を期待していた。浩は三十万の金を、芳子は家の建築費を。道子は西宮の岸本という男とブラジルへ行くつもりだった。彼女の最初の夫は、日本の降伏の当日に戦死、それからは男から男への荒れた生活が続いていた。政夫がやはり敗戦の日、二十年勤めた警察をやめた時から、一家の気持はばらばらになっていた。秀代はくに子との散歩から帰って来ると、一同にアメリカ土産を渡すと云った。が、それは、なんとアメリカの絵葉書だった。--絵葉書、--秀代はアメリカの死んだ夫を思いだした。彼女は死んだ母のことも思い出し、その偉さを皆に話す。道子がそれをさえぎって云った。おばさんの母さん、自殺したんだよ。アメリカにやることで家が立直るかと思ったのだが、借金は続々と出て来た。母は秀代の苦しみを分けて貰おうと、一週間何も食べずに死んだ。--こういう女の声が秀代に聞えた。道子は訪ねて来た岸本を追い返す。先妻の千代子が月々の慰謝料がたまったのを払えとやってきた。秀代はくに子の頼みで全財産の五万円を差し出す。道子は父にはくに子がいる、安心したと岸本のもとへ帰る。浩や春江もスカッとして引き揚げる。自分の無力に酔いどれて帰ってきて泣く政夫を、秀代は母親のようにあやしてやった。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

4.0豪華キャストで織りなす家族の葛藤

2022年5月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

もともと戯曲として書かれたものを映画化したようである。そのためか、劇場で見ているような気になる。ほとんど主人公の家の中で撮影され、それ以外といえば、家の前の街並みや港ぐらい。
屋内でのカメラの角度、照明の当て方もとても効果的、劇場的。

物語といえば、京マチ子、田中絹代、望月優子、船越英二、杉村春子、乙羽信子、小沢栄太郎、水戸光子、宇野重吉、市川和子などそうそうたる俳優陣が織りなす、ある意味えげつないやりとり。
30年ぶりにアメリカから帰ってきた姉が知らされていない、家族それぞれの人生と苦悩が次々と明るみに出て、どうなることやらと思うが、少しも飽きることなく話が展開していく。
写真だけのお見合い花嫁として渡り、日系アメリカ人として強制収容所に入れられていたり、二世部隊の活躍、広島の原爆投下、被爆者の苦悩、米軍黒人兵との子どもなどなど、当時の混沌とした現実がさらりと語られるが、当の本人たちはあまり真正直には聞いておらず、自分の事都合ばかり主張する。

実際、新藤監督の姉はアメリカに嫁いでいたようで、この物語は新藤監督の兄や姉をモデルに書かれたと聞く。
途中に挿入される音楽がマンボ・ラテンで、重要なシーンでもドンと流れてくる。そのタイミングが意外なところもあり、ちょっとホット息を付けれたりする。

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M.Joe

5.0天使のような田中絹代

2021年3月1日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

照明が凝っていて目を見張った。夕立の場面は、完全に舞台のセットと舞台の照明だった。美しい屋根に激しい雨音。かなりの遠景で、陰翳の中の家屋に女性二人。上手は立っている京マチ子、下手は座っている田中絹代。夕立があがったら照明が変わり、軒からぽたぽたと雨のしずく。二人のたたずまいと居ずまいも変わる。光と陰が作り上げる映像がこの上なく美しかった。

久し振りに故郷に戻ってきた秀代=田中絹代のいでたちが、あまりにステレオタイプなアメリカ帰りの満艦飾で唖然とした。でも、だんだんと分かってくる。これは精一杯の「故郷に錦」。写真だけのお見合いで渡米し、日系1世として朝から晩までお百姓として働きづくめ、戦争中は収容所、英語はほとんどできず、向こうでは乞食みたいな格好をしてると彼女は問わず語りに話す。秀代の親やきょうだい、故郷への純粋で懐かしい想い、広島の原爆投下、その後も沢山の人が亡くなっていることもちゃんと分かっている。この滞在が自分にとって最後であることも。

そんなこともつゆ知らず、お金の無心をする甥と姪。秀代は驚きながらも優しく断る。ても、弟の苦しみ、ブラジルへ夫と共に渡る姪(京マチ子)の悲しみを秀代は理解する、なけなしのお金を渡して。秀代は、想像を絶する苦労をしたに違いないから。

田中絹代、秀代の夢に出てくる母の乙羽信子(美しい)、弟の元・妻の杉村春子、そして京マチ子。この4名の女優の存在で映画がキリリと締まった。悲しかったけれど、いい映画だった、とても。

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talisman

5.0キャストが豪華

2021年2月28日
iPhoneアプリから投稿

田中絹代、杉村春子、京マチ子、

豪華版でした。感動☆彡

田中絹代かわいい❤️

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花丸
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