女の中にいる他人

劇場公開日:

解説

エドワード・アタイヤの「細い線」を「肉体の学校」の井手俊郎が脚色、「乱れる」の成瀬巳喜男が監督した心理ドラマ。撮影は「けものみち」の福沢康道。

1966年製作/101分/日本
原題:The Thin Line
配給:東宝
劇場公開日:1966年1月25日

ストーリー

梅雨がまだ明けない頃、田代勲、杉本隆吉は夕刻の赤坂で出会った。同じ鎌倉で隣り合わせに住む二人だが、田代は東京の雑誌社に勤め、杉本は横浜に建築事務所をもち、東京で顔を合わせるのは珍らしいことであった。その日杉本はたまたま東京に勤める妻のさゆりを訪ねたのだ。だが、さゆりは不在であった。その夜田代と飲んで帰宅した杉本に、さゆりの友人加藤弓子から、妻さゆりの死が伝えられた。赤坂の弓子のアパートで絞殺されたというのだ。赤坂、それは田代と杉本が偶然出会った場所である。さゆりの死は杉本家と親しいつきあいをする田代家にとっても大きなショックであった。しかもその死に方が情事の末の絞殺とあっては。さゆりの葬式の日、田代は始終誰かの視線を感じていた。弓子は田代をみつめながら記憶をたどっていた。三月頃さゆりと一緒に出て来た男は確かに田代であった。弓子は疑惑を深めていった。犯人が挙がらぬまま事件も忘れられた頃、田代は妻の雅子にさゆりと関係があったと告白した。雅子は夫の神経を餌んでいた原因をやっとのみこんだ。さゆりは情事に首を絞められて喜ぶ女であった。悌惚と頭を閉じたさゆりの細い首に田代の指が喰いこんでいった。恐ろしい出来事であった。田代は雅子に全てを話した。雅子は殺人犯のレッテルを粘られる家族のことを思い、自首することを必死にとめた。だが田代の心は再び良心の呵責にせめられた。田代はいたたまれず杉本に告白した。瞬間、事の重大さに動揺した杉本だったが、やはり杉本も家庭の平和を主張して自首をとめた。しかし田代の決心は日に日に固まっていった。“罪を隠して生きるよりも自首した父の方が人間として立派なことを子供もわかってくれるはずだ”。夫の決心を知った雅子は夫のグラスに白い薬を落した。妻として、母としての雅子にはこれ以外方策はない。女の中にいる恐ろしい他人の心が犯した冷酷な殺人であった。

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映画レビュー

4.0タイトルなし

2023年10月19日
Androidアプリから投稿

成瀬作品の中では異色の作と思うが、成瀬作品らしい演出も所々にあった。
殺人事件から一夜明けて朝を迎えると雨は上がり、テラスから聞こえるピアノの音。
既視感が…と思ったら「稲妻」だった。
葬儀のシーンで同じ空間でバトンタッチするように代わる代わる、お互いを人伝に尋ねる演出はため息が漏れた。

成瀬作品の音楽と言えば斉藤一郎だが、たまにおっと思う人が音楽を担当している。
「女が階段を上る時」の黛敏郎や、本作の林光など。
ピアノの不協和なメロディが映画のトーンにマッチしていた。

私的に川島雄三作品のイメージが強い三橋達也のキャスティングも見ておっと思った。
加藤大介はどの映画に現れてもなんでこんなに安定しているんだろう…。
登場時はタータンチェックのベストにドット柄の蝶ネクタイ姿で、
どこか可笑しみのある可愛らしさに「ああ、もうこの人は…」となってしまった笑
しかし、何といっても新珠三千代。
普段は控えめで品のある細君だが、川辺での若々しく無邪気な様子と心の読めない無表情の怖さの対比。

この頃の映画の登場人物の内面の葛藤の告白はストレート過ぎて、
胃もたれを起こしやすいけど、成瀬映画は何故かじっと見入ってしまう。

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抹茶

4.0やっぱ「新珠三千代」

2023年6月19日
Androidアプリから投稿

殺人そのものは平板だけどラスト近くの展開が秀逸、罪を告白された妻(新珠三千代)の心情の変化が怖い。

改めて思うのだが新珠三千代の演じる女性は特別なものを感じる事が多い、存在感が良い意味で「不思議ちゃん」なのだ普通なら物語の中で浮きそうだが自然と和むいつの間にか彼女の持つ世界観に魅了される。

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なんてこった

5.0あくまで女性を描く事が目的です

2022年12月3日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

ミステリー?
犯人が中盤で殺人を自白するなんてミステリーじゃありません

成瀬巳喜男監督は一環して女性を描く監督です
本作もそうです
あくまで女性を描くことが目的です
題名からして、原作の海外小説の「細い線」をそのまま採用していません
細い線なんてことには、成瀬監督には興味がないのです
あるのは、題名どおり女の中には他人がいるということです

犯人の自白への驚愕があり、その次にでる女の言葉は私はどうなるの?
子供達はどうなるの?
女の本音はこれなのです

犯人の苦悩になどなんの興味もないのです
中の良い夫婦に見えても、妻は他人であるのです

妻だけじゃありません
登場するすべての女性が自分が最優先なのです
他人を思いやるなんてことはないのです
子供と義理の母くらいでしょう
男に対して思いやるなんてことは表面的なことだけなのです

新珠三千代はその監督の意図を汲んで見事な演技で応えています

犯人からの殺人の告白を受けたとき、自首するとの決意を聞かされた時の表情の動きは素晴らしいものでした

ラストシーンの海辺でのパラソルをさした後ろ姿

クロード・モネの「日傘をさす女」の裏返しの構図のように感じました

モネは妻と幼い息子へ無限の愛を寄せて印象派の名画を描きました
本作のラストシーンはその裏返しです

日傘をさす女も後ろ姿からみれば、彼女は一体何を心の内で考えていたものか知れたものではない
そう言うことだと思いました

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あき240

3.0成瀬巳喜男初のミステリー

2021年9月22日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 犯人はすぐにわかるのだけど、その彼が妻に告白、残された杉本にも告白し、家族のことを考えたら、黙っているほうが得策だと説得される。それにしても、セックスの途中で首を絞めるという行為は過失致死にあたるのだから、それほど重い罪にはならないはず。

 しかし終わってみると、一番幸せな結末だったと思わせるところが怖い。女は罪の意識よりも子供の幸せを願うものなのか・・・

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kossy
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