「噂に違わぬ80年代の傑作」うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー ヨックモックさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5噂に違わぬ80年代の傑作

2017年5月14日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

よく日本のアニメ史やSFを語る時に名前が挙がるけど、うる星やつらなんて世代じゃないから設定もわからないし、シナリオの構造がループ物として凝ってるらしいけど、当時だから目新しくてチヤホヤされたってだけでしょ? まぁ、名作と言われるから一応観ておくけどさぁ…。一応ね。
ってノリで観てみたら、それはもうビックリするくらい面白かった。目からウロコとはこのことだ。何故日本は30年前にこのアニメを作れたのに、現在は作ることができないのか。どうしてなのか。

確かに日常ループものとしての設定自体が特殊なわけではない。ペラ1枚にまとめたプロットがあったら、至極平凡なものだろう。しかしアニメーションとしての練度が違う。ループする日常への導入、演出、そしてエンディングへの収束のテンポが絶妙。各キャラクターの演技(?)も凄まじく、台詞だけで語らせず、微妙な挙動や表情の変化でその心理をおおいに表現しており、その技術力に目を見張るばかりだった。それゆえに、うる星やつらの設定が一切わからない自分でも十二分にたしめた。これって本当に最近の和製アニメーションにとってロストテクノロジーになりつつあるんじゃないか?

“文化祭の前夜祭”という舞台設定もループものに適当な設定だ。おおいに動きまくる最初の数分間の文化祭の喧騒は、現役学生でなくともかつて感じた青春のお祭り騒ぎの楽しさを心に去来させ、その瞬間的な、過ぎ去ることが目に見えたひとときに愛おしいほどの名残惜しさを感じるがゆえに、ループものという設定が活きるのだろう。

キャラクターの挙動もそうだが、演出面も、存分に動き回るシーンと台詞の長回しをするシーンの差がしっかりついていて、この抑揚もSFのはちゃめちゃなお祭り騒ぎ感と、不思議な情緒や寂寥感、不気味さをより際立たせている。
冒頭の文化祭前夜祭のシーンや、巫女の先生と温泉マークとの会話、夜中にチンドン屋と遭遇するまでのシーン、荒廃世界でのメガネの独白などが特に印象に残る。

夢オチもたいていは悪く評価されがちだが、本作はなるべくして帰結した夢オチとして特に不快感は感じられなかった。

日常系SFアニメなんてこの30年間できっとたくさん出てるだろうに、これを越える作品は自分の知る限りではまだ無い。感銘は受けつつ、海外にもおおいに影響を与えた日本のアニメの全盛期が、やはり遠い昔の作品であったことが、否が応にも感じずにはいられなかった。

ヨックモック