鰯雲

劇場公開日:

解説

厚木附近の農家の、当主・嫁・姑・息子たちの姿を、早春から初夏にかけての季節を背景に描いたもので、原作は和田伝の同名小説。「奴が殺人者だ」の橋本忍が脚色、「杏っ子」のコンビ成瀬巳喜男が監督、玉井正夫が撮影した。「駅前旅館」の漆島千景、「炎上」の中村鴈治郎、「風流温泉日記」の小林桂樹、「花の慕情」の司葉子、その他木村功・新株三千代・水野久美・加東大介・杉村春子などが出演している。

1958年製作/129分/日本
原題:The Summer Clouds
配給:東宝
劇場公開日:1958年9月2日

ストーリー

--東京近郊の、厚木附近の農村。東洋新聞の厚木通信部の記者・大川は農家の実態を記事にするため、八重の家を訪ねた。ハ重は夫を戦争で失い、姑のヒデをかかえ、一人息子の正を育てながら農事に精出してきた。彼女は女学校を出てい、たまたま大川と一緒に入った町の食堂「千登世」の女主人は、そのときの同級生の千枝だった。八重の兄・和助は同じ村に住んでいるが、親子九人の大世帯である。昔は十町歩からの大地主だったが、農地改革でわずか一町八反しか残らなかった。今の嫁は三人目であった。長男の初治の嫁探しを八重は頼まれていた。大川の持ってきた話を調べに二人は山奥の村へ行った。その娘みち子の義理の母は、和助の最初の妻・とよだった。農事がうまく出来ぬと、和助の父がむりやり追い出したのだ。八重と大川は、その夜帰りのバスに乗りそびれ、結ばれたのである。大川には妻子があったが。和助は三男の順三を分家の大次郎の娘・浜子の婿にするつもりだった。分家は働き者で家族も少く、貯金もありそうだったし、なによりも、一町歩ほどの土地があった。浜子が大学へ進むと聞き、彼は怒鳴りこんだのである。大学出の娘に婿は来ぬ。土地を返せ。浜子は町の洋裁学校に通い始め、和助の次男・信次と段々親しくなる。信次は商業学校を出、町の銀行に勤めていた。農家暮しを嫌って、和助の反対をおして町で下宿生活を始めたのだ。和助は初治たちの婚礼を、借金してでも昔どおりに盛大にやろうとした。初治はみち子と相談し、和助には内証で千登世の裏二階に一室を借り、世帯を持った。田の貸スキの仕事で稼ぎ、家の田にもそこから通うつもりだ。この“なしくずし結婚”を、和助も認めざるを得ない。八重の手引きで彼はその二階で、とよと三十年ぶりに会った。婿と嫁の親同士としてである。二人はしみじみ話した。自分たちの辛かった新婚当時と比べて、今の若い者は思い切ったことをやると。時代の違いですわねえ。とよは山林を売った金で若い人へ家を買ってやるといった。和助は宅地を提供する気になった。初治は前々から順三が東京で自動車の修理工になるについて、その費用を田を売って工面することを頼んでいた。土地を命より大事に思う和助が承知するわけはなかった。しかし、浜子が信次の子を妊娠し、彼の目論見は狂ってきた。親の言いなりだった自分と違って、若い者は親に事後承諾を求めるだけだ。 --和助は順次の東京行きのために田圃を手離した。初治の家も建ち始めた。式も公民館で挙げることになり、そのときは信次たちの式も一緒だ。浜子はさっさと子をおろし、大学へ通うつもりらしい。--八重は大川を愛し続けてきたが、彼は東京へ転勤することになった。大川を乗せた電車が東京を目指すころ、相模平野の片すみの田圃で八重は歯をくいしばって除草機を押していた。緑一色の田が拡がり、そして--その高い空に、初夏には珍しい鰯雲。

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映画レビュー

5.0両義的な時代、両義的な人間

2022年12月18日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1958年。成瀬巳喜男監督。神奈川県厚木周辺でかつて地主だった農家を舞台に、農地解放と近代化によって人々の意識が変わっていく様子を切なく描く。同時代(昭和30年代初頭)が想定されていると思うが、あらゆることが変わろうとしている過渡期だということが強調されている。田んぼを耕すのは牛だったり耕うん機だったりするし、農家の子どもたちは高校や大学に行ったりいかなかったり、農民になったり銀行員になったり工員になったりする。祭りや地鎮祭のような地域のつながりがしっかり残っている一方で、若い男女が親に黙って同棲するのを助けようとする大人もいる。地主と小作、本家と分家、親と子といったかつての社会構成が確実に変化していく姿を両義的なままに描いている。耕うん機もそうだが、車や電車が意図的に農村風景の中に入り込んでいる。
しかも、古い因習的な田舎の暮らしが個人と自由を尊重した近代的な暮らしに移り変わっていくことを肯定的に描くわけでもなく、両義的な態度を貫いている。インテリの農家の未亡人として新聞に投書する進歩的な淡島千景も、頑固な兄の中村鴈治郎(二代目)が土地に執着することには同情的だったりする。
淡島千景自身が両義的な空気をまとっていて、モンペ姿(農家の嫁)と和服姿(インテリ貴婦人)とで雰囲気が一変している。新珠三千代とのやりとりでは学生らしさを残した華やぎがあるが、不倫相手の新聞記者との関係は終始重苦しい。前者は車とともに描かれ、後者は電車とともに描かれる。
カラーのワイドスクリーンで、のびやかだが因習の残る農村の風景や家屋敷と、そこから離れようとする若者たちが依拠する料理屋や下宿とがゆったりと描かれる。

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3.5農地改革と高度成長の狭間にある近郊農村の時代変化を描いた成瀬監督の手堅さ

2021年11月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
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Gustav

3.0嫁探し

2019年3月19日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 新憲法やら農地改革などの話題。その上農村には嫁が来ないとか、戦後の農村を描いた社会派ドラマ?と思っていたら、いきなりメロドラマへとなった。とビックリするのも束の間、またもや嫁問題、婿問題などが中心となっていく。

 小津、成瀬と、大家族を描いた監督の作品でも、名前や人間関係を把握しづらい映画は苦手の部類。この映画もとにかく名前は多く出てくるけど、把握するのにひと苦労。それでも淡島の叔母さんを中心にした新しい考え方が本家・分家に隔たりを失くしていく過程が面白い。

 不倫やできちゃった結婚、現代的なテーマにも取り組んで、やがては農業を離れていく順三なんて扱いもリアル。全体的なストーリーには面白味がない分、そうした戦後の農村ドキュメントとして見ることができれば儲けもの。

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kossy

4.5時は止まらない

2015年3月24日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

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松井の天井直撃ホームラン
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