劇場公開日 1964年4月18日

「二度と見られない?狂言ミュージカル」ああ爆弾 こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0二度と見られない?狂言ミュージカル

2009年6月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

この作品の物語をそのまま演出すると、没落した情けないヤクザ一家を描いた変哲もないコメディー、程度の評価しかならなかっただろう。ところが岡本喜八監督は、何の変哲もないコメディーに、なんと日本の伝統芸能である狂言を取り入れたことで、一気に無視できない佳作に仕上げているのだ。

 主人公の情けない境遇や状況説明の際に、突然、インド映画のように狂言がはじまってしまうのだから、見ているほうは面くらってしまう。しかし、狂言は人間の可笑しさを表現したもの、だったりするわけなのだから、まさにこの映画の内容にピッタリ、というのに気づくと、狂言ミュージカルのシーンがとても面白いものになる。ただ、伊藤雄之助など役者さんたちは、普段は狂言などやったことないわけだから、さぞや芝居は大変だったろう。

 この時期の岡本喜八監督は、この作品や「江分利満氏の優雅な生活」などで、突飛な演出をして映画会社や世間を驚かしていた。しかし、その突飛さは今も新鮮に見えてくるのは、喜八監督の演出力の確かさがあるからだ。この狂言ミュージカル映画でも、狂言をするということで映画全体が惑わされない、しっかりと人間描写ができているのは、さすが岡本喜八、と感心してしまう。

 本当に面白い映画なので、狂言を伝えている和泉家や茂山家などの有名な狂言役者さんたちでリメイクしてもらいたいものだけど、たぶん、お金出してくれるところなんてないでしょうね。

こもねこ