劇場公開日 2007年10月27日

「泣ける社会派!」この道は母へとつづく こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0泣ける社会派!

2013年3月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

 確かに子どもが母を探すというストーリーではあるが、配給会社がつけたこの作品タイトル(原題は「イタリア人」)だけで見に来た人の中には、「あれっ、違うんじゃないの?」と感じた人もいたのではないだろうか。まだ見ていない人のために言っておくと、タイトルからくる叙情的なイメージとは違って、実はこの作品、ロシア社会の内情を孤児の視点から描いた社会派ドラマなのである。

 主人公の孤児の男の子が、孤児院の中では先輩孤児の悪辣さから、そして孤児院を抜け出してからは孤児を売るブローカーの手から逃れながらも、自分を捨てたまだ見ぬ母親を必死になって探そうとする健気さは、見る者の涙を誘うくらいにいじらしい。ところが、そんな健気な子どもに対して、恐喝する子どもがいたり、あからさまに無視を決め込む大人がいたり、というようなロシア社会の冷たさや酷さを、この作品の監督は「これがロシアの現実です」と言わんばかりに、いやおうなしに見る者に見せつけていく。
 この作品の原題「イタリア人」は、この主人公の孤児が、子どものいないイタリア人夫妻にもらわれることに対する、他の孤児たちのひがみをこめた呼び名だ。しかし、この原題が意味しているのはそれだけではなく、現状のロシアから抜け出したいと思い、今のロシアに嫌気をさしているロシア人がいかに多いか、ということも表わしているようだ。
 ところが主人公の孤児は、今よりも幸せになれるイタリアに行くことよりも、現状のロシアで、本当の母親の愛のもとで暮らすことを選んで、必死にロシア社会をさまよう。そんな、何の力もなく勇気だけで行動する小さな尊さが、この作品の一番美しいところであり、見る者に深い感動を与える。ロシア人社会の冷たさが、今の日本の社会のどこかに巣食っていることを思うと、将来的にこの作品の存在は、ロシアよりも日本のほうが意義深くなるような予感がしてくる。

こもねこ