劇場公開日 2007年10月13日

キングダム 見えざる敵 : 映画評論・批評

2007年10月2日更新

2007年10月13日より有楽町スバル座ほかにてロードショー

勧善懲悪に堕することなく、正義のあり方に疑念を提示した社会派アクション

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「ワールド・トレード・センター」や「ユナイテッド93」は深い傷を負ったアメリカが、9・11後を生き抜く上でヒロイックな物語を必要としている証しだった。本作を見る限り、少なくともハリウッドはしたたかに、かぶりを振って起き上がったかに思える。混沌とした中東を舞台に緊迫感みなぎるアクションを盛り込み、なのに勧善懲悪に堕することなく、正義のあり方に疑念さえ提示するのだ。

徹頭徹尾のハイテンション。冒頭、サウジアラビアの外国人居住区で無慈悲な自爆テロが発生する。現地へ乗り込み、黒幕を突き止めようとするFBI捜査官がサウジの警察官と対立するが、やがてプロ意識をもった者同士が微妙に心を通わせていくという流れも無理がない。社会情勢や政治を背景に、過酷な状況に引きずり込みながらエンターテインメント性を保つ演出は、製作に名を連ねるマイケル・マン直伝のタッチ。揺れ動く不安定な複数のカメラアイによる、30分間に及ぶクライマックスのバトルには、ただただ圧倒される。

だがちょっと待て。ふと、崩壊してゆくツインタワーの映像を見て呆然としつつ、心のどこかで、映画を見るがごとき興奮を抑えなきゃいけないと諫めたときの感情が甦った。陰惨な現実を呑み込み、映画的リアリティは進化しても、人が本能的に“戦闘”に高揚する生き物である限り、「報復の連鎖」の火種を永遠に消し去るのは難しいということを、この社会派アクションは逆説的に語りかけてもいる。

清水節

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