劇場公開日 2007年8月18日

長江哀歌(エレジー) : インタビュー

2007年8月22日更新

ジャ・ジャンクー監督インタビュー

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──プロではない“俳優”がまたいい演技をしています。

プロの俳優でない役者から得られることも多い
プロの俳優でない役者から得られることも多い

「僕は、彼らを見て興味を持ったことを最大限に引き出して描くようにしています。ハン・サンミン(主人公の男)が泊まる宿屋の主人、彼は編み上げた帽子をかぶっている70代の老人ですが、あのお爺さんを僕らは“ミスター民国”と呼んでいました。(孫文が建国した)中華民国の時代から生きているような方ですからね。ああいう船着き場に長い間生きてきたわけで、人々の生死をたくさん見てきたと思うんです。彼には、僕らが持っていない古い記憶を引き出してもらいました。もう一人、ハン・サンミンの逃げた奥さん役の女性は初めて会った時、人民軍コートを着てタバコを売っていましたよ。何て、オールドファッションな女性だろう(笑)と思いましたが、誰も彼女の存在自体を気に掛けないふうだった。ああ、でも彼女なりにいろんな隠されたストーリーを抱えているんだろうなと想像し、あの複雑な役をお願いしました」

──彼らのNGレベルはどのぐらい?

「撮影開始当初は確かった多いですね。我々が俳優として迎え入れたとは言え、昨日までタバコを売っていたおばちゃんに『演技しろ』と言っても、すぐに上手くいくわけないですから(笑)。最初はセリフが飛んだり、テンポがメチャクチャだったりしましたが、撮影を何度かこなすと、セリフにもリズム感が出てきます。演技経験のない方に演技を付けることは、監督としてとても大変な仕事ではありますが、それでも得られるものも大きい。その土地に呼吸をしてきた彼らの表情は、プロの俳優にもなかなか出せませんからね」

小津映画のヒロインにも通ずるサンミン
小津映画のヒロインにも通ずるサンミン

──サンミンが故郷の炭鉱に戻る前の晩の、タバコを吸って酒盛りする描写は何気ないのに、別れと出会いが凝縮されている。

「人間の営みとは平々凡々としたものですからね。タバコ1本で友情が作られる場合もありますから」

──チョウ・ユンファに憧れるヘビースモーカーの青年が登場しますが、監督のお気に入りのチョウ・ユンファ映画は何ですか?

「『男たちの挽歌』が一番好きだけど、『狼/男たちの挽歌・最終章』の篤い友情が好きですね」

──あなたの映画のヒロイン、チャオ・タオは小津安二郎映画のヒロインのように、額を出していますね。ペットボトルの水やお茶で、四六時中喉の渇きを潤していますね。あの汗ばんだ情景は意図したものですよね。

「ええ。小津映画の大ファンですが、髪を下ろすと、女性は不幸になりますから(笑)」

──リー・リクウァイさんのHD DVDカメラは、ロケ地を駆けめぐる撮影に“機動性”をもたらしましたか? 中国当局からの干渉は何かありませんでしたか?

中国当局からはタイトルについての要請があった
中国当局からはタイトルについての要請があった

「HDカメラを使うと、普通のフィルムより手早く撮影できます。それはリクウァイの力量によるんだけど、彼がHDカメラの長所と短所を知り尽くしているからこそ、画面に奥行きを持たせられました。中国当局の干渉については、脚本を提出する時に原題(『三峡好人』)から“三峡”の文字を外してほしいと要請されました。ダム工事に対して好意的な物語ではないからでしょうが、外しませんでした。撮影には、三峡がある県の役人が監視人として現場に来ましたが、撮影初日がビルを解体する危険な撮影だったので、2日目以降、もう彼は来なかった(笑)。自由に撮影できましたよ」

──昨年のベネチア映画祭で金獅子賞(最高賞)を受賞した時、どういう気分でした。

「夢の中にいました。これまで10年間、映画を撮ってきましたが、僕の映画人生はまだまだこれからだと思っていたので、獲っていいの、って感じ。ただ、最近は映画監督の製作本数も昔ほど多くなく、少ないながらも僕自身もあっという間だったので、これからはもっと集中して映画と格闘しよう、がんばろうと思わせるパワーをもらいました。それが糧になって複数のいろんな企画を思いつくんだろうけど、いざ作るとなると、直前にしか脚本を書けないんですよね、たぶん(笑)」

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