劇場公開日 2007年7月7日

街のあかり : 映画評論・批評

2007年7月3日更新

2007年7月7日よりユーロスペースほかにてロードショー

澄み切った境地を感じるカウリスマキの新作

画像1

アキ・カウリスマキの初期に「マッチ工場の少女」という作品があった。貧しい娘が、不条理な不幸な連鎖に陥る話で、新作「街のあかり」は、ある意味、その男性版といえる。ただあれから長い歳月を経て、監督の心はかつてより澄み切った境地を感じる。

主人公はヘルシンキに住む孤独な夜警。同僚にも相手にされず一人ソーセージ屋台で食事する姿に詫びしさが募る。そんな彼に「ロマンチックなバカ」と見抜いた狡猾なマフィアのボスは絶世の美女を差し向けて誘惑し、宝石店襲撃の罪を夜警一人になすりつける。

古典的なフィルムノワール、終盤にはサイレント映画のような凄みさえ漂う。聞けばこの映画の前に体調を崩したという監督。いまはキートンのドライさよりチャップリンのヒューマニティーに惹かれているようだ。ただそれらは監督の好みではあっても主題ではない。監督にとって大切なのは、主人公にわずかな「あかり=希望」を投げかけることだったのだろう。

(田畑裕美)

※筆者の田畑裕美さんは、6月21日に逝去されました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。編集部

Amazonで今すぐ購入

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む
「街のあかり」の作品トップへ