劇場公開日 2006年9月23日

「「退屈さを楽しむ」映画」ストロベリーショートケイクス 踊る猫さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0「退屈さを楽しむ」映画

2015年12月18日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

四人の女性が登場する。デリヘルの受付をしている里子。その里子の店で働くデリヘル嬢の秋代。平凡な OL のちひろ。ちひろと同居しているイラストレーターの塔子。四人の平凡な生活が、透明感溢れる映像によって綴られる。里子は店長に口説かれたり、その店長にお尻を触られたりする冴えないけど生真面目な女性で、秋代はデリヘル嬢として好みに合わないプレイもこなさなければならない。ちひろと塔子もまた微妙だ。平凡な OL 故の悩み(「誰にでも出来る」仕事を充てがわれているというもの)を抱えるちひろと、売れっ子イラストレーター故の苦悩を抱える塔子(摂食障害も患っている)。ふたりの共存は微妙な距離感を伴っている。

実に評価に苦しむ映画だ。つまらない、と言うわけではない。そんなに癖を感じさせない、技巧的に凝っているという印象は感じさせない(つまり如何にもお洒落な映画、と言った感じのあざとさがない)撮り方が印象的だ。光に満ち溢れた、ロケーション撮影も室内での撮影も綺麗にかつ丁寧に撮られた印象を感じさせる一本であると思わせられる。その反面、その癖があまりにもないところ、没個性的と感じさせられるところがこの映画の足を引っ張っているのではないかとも思ったのだった。これは観る人をかなり選ぶのではないだろうか。私もイマイチのめり込めなかったものの、最後まで一応(そんなに起伏のあるスジではないのに)観てしまった。その力は「買い」かもしれない。

女性の映画だな、と思った。裏返して言えば男の影というか臭いがさほど感じさせられない、マッチョイズムといったものとは無縁に成り立っている映画なのだろうなと思ったのだ。もちろん男性が出て来ないわけではない。安藤政信氏が殆どチョイ役ながら良い演技をしている。だが、この映画のキモはやっぱり四人の女優たちの演技に尽きるだろう。池脇千鶴氏、中村優子氏、中越典子氏や岩瀬塔子氏がそれぞれの役を演じているのだけれど、大根という印象を感じさせるような演技ではなかった。特に個人的には中村優子氏の、棺桶の中で寝るという変わったところがある、私生活では地味なんだけれどデリヘル嬢として働く時はそれなりにケバくなる秋代の姿が印象に残った。恥ずかしながらそのギャップ故に同一人物だとは判別出来なかったほどである。

あとは池脇千鶴氏もなかなか素晴らしい。これは非常に失礼極まりない言い草になってしまうのだが、俗に言うところの「ちょいブス」な女性、美貌で勝負するというわけではないのだけれど生真面目で好感が持てるキャラクターを巧く演じていると思う。振り返ってみればこの映画はまさにその池脇千鶴氏がバンドマン(だと思われる)の彼氏に縋りついて離れないところから始まるのだった。一途な恋を追い求める、それ故に損な役回りも引き受けなくてはならない女性というものを好演していて、「こういう女性って居るな……」という説得力に溢れている。一番身近に感じられるキャラクター、と言えるだろう。

そんなところだろうか……あとは塔子のキャラクターもなかなかだ。こうやって書いていくと、四人の女性が全て好演しているように思われるのだが実際にその通りではないかと思う(難を言えば、その中で比較するとどうしてもちひろを演じる中越典子氏が弱く感じられる)。保坂和志氏(もちろんあの作家の)が――これは本当にチョイ役で出演しているのだけれど――その演技の素人ぶりを曝け出してしまう時に、四人の女優の地力が活きて来ることになると思う。くどくなるが、起伏などあってないような「自然体」の映画でもここまで魅せるのは四人の演技の巧みさからだろう……これ以上書けることというのもないのだった。魚喃キリコ氏による原作は未読だし、こちらを良い意味でも悪い意味でも嫌悪感を抱かせるような尖ったエロスというものも表現されておらず、下品でもないのだけれどイマイチ生々しさにも欠けるかな……という印象を抱く。これは監督が男性であることに由来するものなのだろうか。興味は尽きない。

従って、一応(失礼!)最後まで観ては観たのだけれど、繰り返しになるのだけれど流石にストーリーが平板に過ぎる。それでも女性作家の作品を映画化したからなのだろうか、女性特有の細かい会話のやり取り――と書くとこれもまた不躾になるのだが――気が効いたところに好感は持てるのだが、それだけで釣って行くにはちょっと題材が辛いのではないか、というのが正直なところ。悪く言えば何処か「退屈さを楽しむ」というゆとりがこちらにある時にでなければ楽しんではいけない内容なのだろうと思う。個人的にそれを堪能したと言い難いのは幸か不幸なのか。いずれリヴェンジすることになるのかもしれないが。

踊る猫