レッドライン7000

劇場公開日:

解説

カー・レーサーのジムがデイトナのレースで事故死した。同僚のマイクと雇い主のパットが宿舎に戻ると、ジムの婚約者ホリーがいた。彼女は以前にも恋人を事故で失っていた。やがてパリから招かれたドライバーのダンがホリーに一目惚れするが、ホリーは頑なに拒絶し……。出演者のほとんどが、デビュー間もない新人か演技経験のない若者で、ホークス監督は大いに手を焼いたという。題名の『7000』は車のエンジンの1分間の回転数を示している。

1964年製作/110分/アメリカ
原題:Red Line 7000
劇場公開日:1966年3月26日

スタッフ・キャスト

監督・製作・原作
撮影
ミルトン・R・クラスナー
音楽
ネルソン・リドル
美術
アーサー・ロナガン
ハル・ペレイラ
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映画レビュー

5.0本格的レース映画の元祖で、カーアクションは豪快だが、複数男女の物語は、コメディ要素もなくもたつくのが玉に瑕のホークス監督お得意のプロフェショナル映画!

2022年7月25日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

巨匠ハワード・ホークス監督の晩年に近い1965年作品で、割と低予算で若手俳優中心のノースター映画だが、大学で機械工学を専攻して若い頃にレースをやっていた経歴もあるホークス監督的には、趣味と実益と原案も兼ねた作品。

同時期のドタバタコメディ・タッチな『グレートレース』を除外すると、レース映画の元祖的な立ち位置にある作品で、当時の車や風俗と並んで、ストック・カー・レースの場面や時代雰囲気も分かるロケ場面を巧みに取り込んだ映像があり、特に車好きなどは楽しめる作品になっている。

冒頭からオーバルトラックを、高速で走るレース・カー車載映像と、タコメーターアップと回転数表示から処理されるメインタイトル場面なども、力強いセンスがあり、大排気量エンジンの轟音とタイヤを軋ませて加速する車やコントロールを失ってバンクなどで滑りコースアウトクラッシュする場面などカットバックする映像と共に紹介されるスタッフ・クレジットで、観客をストック・カー・レース場にいるかのように体験させつつ、説明も兼ねるオープニングも見事で、16ミリフィルムの記録フィルムも混じっているが、サーキットのバンクから飛び出して空中を舞うレースカーのクラッシュ場面などのカーアクションは、とても豪快でカメラワークにも凝ったカットがありビジュアル面でインパクトも強く眼を見張る。

一般的にスティーブ・マックイーンの『ブリット』が最初に映画的な見せ場として、カーチェイスを始めて以来、現在の映画では、当たり前になったクルマを使ったアクションですが、歴史は割と新しいはずで、この作品は、レース限定とはいえその先駆け的な部分を担っていると思う。

事故死したドライバーの代わりに、不遜な若者のネッドをサーキットで、テストする場面は、オーバルトラック走るネッドを、内側で絶えず見つめるマイクやホリーの姿と外側を走る車からの目線で見る楕円移動するカメラワークが面白く、移動と動きを感じさせる場面になっている。
撮影のミルトン・R・クラスナーは、ロバート・ワイズ監督の『罠』で劇中と上映時間のリアルタイム進行撮影などで記憶してるアカデミー賞も受賞したベテランで正直ロケの場面にどこまで関わっているのかは分からないが、レース場面はとてもいい。

衣装デザイン担当にあのイーデス・ヘッドが関わっているのも地味に注目していたい点。ホークス作品を担当するのも珍しい印象。

車好きには、C2型コルベットやデイトナ・クーペやマスタングGTなどの当時最新の車種見られたり、いろいろ会社とのタイアップが画面にモロ出しで、玩具のレベルや飲料のペプシやモーテルチェーン店のロゴが露骨に出てくるのはご愛敬。自動販売機などはペプシ以外は、共産圏の様な素っ気無い造りなのが露骨で、ペプシ自販機前での男女の出会いなどの笑える描写もあるが、その時の女性の艶やかな姿がホークスぽい。

バイクはホンダが登場したり、サーキットの広告にスズキやヤマハの日本勢の看板があるのは、当時のメーカーの進出具合がわかる資料としても興味深い。(60年代の日本車は通用しなかったけどバイクやカメラは世界を席巻し始めていたのが映画などを観ると分かる)

主演のジェームズ・カーンは、本格的映画デビュー作で凶悪でインパクトある悪役を演じたスリラー『不意打ち』の後で打って変わって、どことなくジョージ・ペハードを思わせる風貌の二枚目だが、ドラマの弱さと相まって印象には残らないが、この後のホークス監督作の傑作豪快西部劇『エル・ドラド』の方が、大ベテランのジョン・ウェインやミッチャムと組んで、射撃が苦手なナイフ使いの若者をとぼけた感じで演じて儲け役だった。
個人的に嬉しいのは、スタートレックのジョージ・タケイがチームのメカニックとして出番もありハリウッド映画特有の変な東洋人扱いが少ないところ。

気になるのは、レース描写以外に複数の男女の物語になっていて、ホークス監督お得意のプロフェショナル映画としての側面もあるが、『リオ・ブラボー』や『ハタリ!』の様なユーモア要素が弱くて、ドラマ部分も割と平坦で、起伏がなくて女性陣も魅力に乏しく、作品としての出来栄えは正直、この後も傑作を撮っているホークス監督にしては、ドラマ部分が凡庸なのは残念だけど、この作品以降にレース映画の傑作でもあるジョン・フランケンハイマー監督の『グラン・プリ』や日本でもタツノコプロ制作でアメリカでも人気の『マッハGoGoGo』なども本作の冒頭にタイトルロールの出し方やバンクから飛び出して空中を飛ぶレースカーのクラッシュ場面などがビジュアル面で引用されており影響を受けて取り入れているのは明らかで、後のカー・レースジャンル映画に影響を与えた意味でも結構重要な位置付けの作品だと思う。
個人的には、本作以降の多くのレース映画も正直レース描写と比較するとドラマ部分は弱い作品が多い印象。(2000年代以降の作品にドラマ部分も含めて良作が多いが)

素晴らしいレースの場面で構成されているが、緩急に乏しくて登場人物達の周辺のみの即物的描写が殆どで、後の作品におけるレース場の静けさから高揚してゆく描写が無いのが個人的に難点。(フランケンハイマーの『グラン・プリ』の様なレースの朝から開始直前まで経過が分かるショットがあると違うかもしれませんが初期だからね)

思えば、SFホラー限定空間アクションの元祖的作品でもある『遊星よりの物体x』やギャング映画の頂点的な出来映えの『暗黒界の顔役』など、ホークス作品はジャンルを開拓したり牽引した作品がある作家で、本作も本格的レース映画の元祖で、お得意のプロフェショナル映画として見ると割と重要な作品だと思う。

余談
『暗黒界の顔役』てリアルに突き詰めるて描くと相当に血生臭くアンモラルな題材になってデパルマの傑作リメイクでもある『スカーフェイス』になってしまうのは明らかだと思う。物体xも

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