間違えられた男

劇場公開日:

解説

無実をはらそうと逃走を図るヒッチコックお得意の虚構サスペンスとは一線を画す作品。監督自らが冒頭に登場し「真実のストーリー」であることを告げている。金を借りるために生命保険会社へ出向いたマニーは、以前入った強盗犯と間違えられ拘束される。高額の保釈金を支払い、妻と共にアリバイ立証のため奔走するが……。鉄格子ごしの風景など、主人公の視点で構成されたカメラワークや、少ない台詞で無実の罪に混乱した悲壮感がリアルに描かれている。

1956年製作/105分/アメリカ
原題:The Wrong Man
劇場公開日:1957年6月19日

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映画レビュー

3.5娯楽系サスペンスからはかけ離れた実録ドラマの決定版

2020年4月27日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

「知りすぎていた男」と「間違えられた男」はヒッチ作の中でも間違えられがちな二大邦題として知られる。でも実際に見比べるとジャンルは根本から異なり、前者が娯楽サスペンスなのに対して、本作はリアルな実録ドラマのような構成。それゆえ、いつものように油断させておいて観る者をあっと驚かせる演出は、ここには皆無だ。私たちはただ、冤罪のために誤認逮捕されてどん底に落ちていく男の人生を見つめ続けねばならない。その雰囲気を壊さないためなのか、カメオ大好きなヒッチコックも、今回ばかりは冒頭でストーリーテラーとして顔を出すのみ。

ただしこんな中でも、不意にカメラが留置所の小さな「覗き窓」をスルリとくぐり抜けたり、ちょっとしたカメラの動きが感情の揺れを捉えたり、随所にキリスト画や十字架といった宗教的なモチーフが盛り込まれるなどの趣向が興味深い。ヒッチコック作品の中でもちょっとした異色作として受け止めうる一作だ。

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牛津厚信

3.5【免罪の恐ろしさを描いた作品。夫が自らの歯の治療のために、愚行に走ったと思ってしまった妻の精神が崩壊していく過程も、恐ろしき作品である。】

2022年10月3日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

怖い

幸せ

■妻、ローズの歯の治療のために借金をするために保険会社を訪れたマニー(ヘンリー・フォンダ)。
 対応した窓口係は彼の顔を見て驚く。
 以前保険会社を襲った強盗に瓜二つだったのだ。
 彼は警察に連行され、覚えのない罪を背負わされる。
 何とか保釈にこぎつけたマニーは、妻と共に無実を証明しようと奔走するが…。

◆感想

ー 本作は、冒頭にアルフレッド・ヒッチコックが登場し、”今作は事実に基づいた作品である”と語るシーンが印象的である。-

・冤罪は最近では少なくなったと思いたいが、今作発表時代や、日本でいえば戦後の幾つかの免罪事件で、その後数十年をかけて無罪判決を言い渡された事件が脳裏に浮かぶ。

・今作でも、妻の歯の治療費用を借りるために、銀行を訪れたマニーが、真犯人と酷似しているという銀行員の”主観”に依って、勾留され、果ては裁判にまで縺れ込む。
ー 妻の心労や、如何に・・。精神に異常を来すのも良く分かる。警察の捜査方法の杜撰さも含めて・・。-

<今作は、今までにないアルフレッド・ヒッチコックの、当時多発していた、警察による杜撰な捜査による冤罪をテーマにした作品である。
 全く、他人事ではない視点で、今作を制作したアルフレッド・ヒッチコックの慧眼に、頭を垂れる作品である。>

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NOBU

4.0シリアスを極めたサスペンス映画のヒッチコックの無駄の無い的確なモンタージュ

2021年7月21日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、TV地上波

アルフレッド・ヒッチコック監督が、1953年のニューヨークで実際にあった冤罪事件を忠実に再現したサスペンス映画。実録に徹しているため、何時ものシニカルなユーモアは無く、シリアスな演出がより身近な恐怖心を誘い込む。それは恒例のヒッチコック監督登場の逆光を受けたシルエットのショットから、ラストの主人公家族の事件後の状況を説明するショットまで一貫している。テレビシリーズ「ヒッチコック劇場」を彷彿とさせる演出タッチだが、映画作品では珍しく特異な存在といえる。原作・脚本にルイス・マイルストン監督の「西部戦線異状なし」「雨」のマクスウェル・アンダーソンという人が参加しているのも、他に組み合わせが無いだけに目を引く。

この映画の見所は、カメラの視点が主人公クリストファー・マニー・バレストレロの視点の先を克明に描き、彼の追い詰められた心理をそのショットの積み重ねで表現しているところだ。見覚えのない事件で逮捕されてから、彼が何を注視して事の現実を受け止め怖れ慄いたかが分かるようにモンタージュされている。例えば、逮捕され車で運ばれるところで、両脇の警官に振り向くところ。無表情な横顔に、ただ葉巻を喫うショットなのだが、もうそこに彼の心理が込められている。初めて警察署に連れられてみる警察署内部の様子、独房に入れられて改めて見る椅子、洗面台、天井の隅、そして鉄格子。続く拘置所に向かう前の手錠のアップに、護送車の中の手錠を填められた手から他の逮捕者の汚れた革靴にパンするショット。それらは、無機質な物をただ映したショットに過ぎないが、主人公演じるヘンリー・フォンダの精気の無い戸惑いの表情の演技とモンタージュされることで生まれる基本的な映画演出の妙味になっている。その為、状況説明の場面以外はヘンリー・フォンダの顔のアップショットが多く、彼の計算された表情演技が作品を支えているし、観るものを同時体験させるに至るサスペンス映画になっている。映像の客観性と主人公の主観がバランスよく配置されたヒッチコックの力作と評価すべき映画であろう。また裁判シーンでは、オコナー弁護士が無効審理を要求し裁判のやり直しをするが、緊張感のない検事や落書きに熱中する者、時間を持て余す姉夫婦、そして気が緩んだ陪審員たちのマニーの視点のショットが並べられる。無罪にも関わらず、ひとり孤独な状況に置かれているマニーの描写として、原作・脚本が事件の本質を追求した証拠になる場面だ。この脚本・演出により、全体としては無駄なショットがない理路整然とした編集が特徴の簡潔な映画文体の見本のような映画であり、娯楽映画の楽しみが限定された、ある意味映像づくりのプロが参考にすべき技術的な楽しみがある。マニーが自宅アパートの玄関のドアを閉めるところのショットで、カメラは彼の後ろから撮るがドアを通り越して部屋に入る。マニーがドアを閉める音だけで表現したシーンが二度ほどある。部屋から切り返して撮るのが定石だが、この表現で沈痛な面持ちのマニーの心理を持続して描いている。ここにカメラを駆使した、カメラが作者のペンになったテクニックが表れている。そしてそれは、刑務所の個室に入り込むカメラが、終始マニーの顔を捉えて、釈放を言い渡されるショットの印象的な技巧にも効果的に使われている。

地球上には自分にそっくりの顔と体型を持った人が三人いると言われるが、そんな人が身近にいて尚且つ犯罪を犯して行方知らずなら、いつ自分に嫌疑が掛かるとも分からない。否そんなことはあり得ないと、どこかで安心しているのが普通の人間であろう。人相と筆跡と被害者の確信のない証言だけで有罪になってしまうなんて、現在の捜査基準では考えられない。そんなことを色々思いながら見て、でも一番怖いのはマニーの無罪が証明されても直ぐに回復しなかった妻ローズの精神的病だ。映画は、この敬虔なクリスチャンの良妻賢母のローズが、夫を信じきれないで疑う自分の罪に押し潰される女性の姿もリアルに描き出している。「捜索者」「サイコ」の活発で意気盛んな女性とは違う、繊細な神経を持ったローズを演じたヴェラ・マイルズの地味ではあるが確かな演技もいい。民事専門の何処となく頼りない弁護士オコナーを演じたアンソニー・クエイルも彼らしい個性を出している。撮影当時51歳のヘンリー・フォンダは38歳のマニーを演じている。この年の差の違和感がありながら、演技はそれを克服して見事にマニーになり切っている。正当に評価されない俳優人生だった人だが、この演技はフォンダの代表作の一本に挙げてしかるべきと思う。

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Gustav

1.0ヒッチコック感がマイナスに思えて…

2021年7月13日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

私としては買えない作品だ。
結局は、夫は冤罪で容疑者になり、
その夫に疑いを持ったために精神の破綻に
陥った妻、その夫婦二人の話なのだが、
そこに中途半端にヒッチコック感を出し、
さも何かがありそう的な描き方をしたこと
には流石に無理を感じた。

実話に基づくと言うのなら、
警察の似た男の捜索や、
筆跡が何故似ていたのか、との点について
全く触れていないのは、
主人公が逮捕されても声高々に
無罪を主張しないことも含め、
私はただ情報の外に置かれているように
感じさせられ、現実感も得られなかった。

ヘンリー・フォンダという、
アメリカの良心を体現するような俳優の起用
から、私は逆に、あるいはこの主人公が
実は犯人だったとの観客への罠なのかな
とも思い観ていたが、
さすがに中盤から妻の疑う描写が
出てきて思い直したものの、主人公の言動が
余りにも淡々とし過ぎていて、
ヒッチコックが実際にあった冤罪事件の
事実以上に何を表現しようとしているのか
分からなくなった。

監督がいつもと違う切り口で
社会問題へ迫ろうとする意欲は買うが、
思わせぶりなヒッチコック要素の行使が
邪魔をしていたように感じる。

内容からして、
夫婦の思索により深くウエイトを置いて、
別の監督で正攻法的に撮った方が良かった
のではと思わせるテーマ作品だった。

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KENZO一級建築士事務所
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