劇場公開日 2008年3月1日

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明日への遺言 : 映画評論・批評

2008年2月26日更新

2008年3月1日より渋谷東急ほかにてロードショー

偉人の超人性ではなく、気高い精神を描いた秀作ドラマ

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極東軍事裁判でB級戦犯とされた軍人の法廷闘争——そんな表現で括ってしまえば、一方的に日本を裁いた戦勝国の不正を告発する作品のように思えてしまう。しかし本作は、政治や民族を超え、毅然とした人間の品格を真摯に描いた静かなる秀作ドラマだ。

岡田中将とその部下は、無差別攻撃を行った米軍戦闘機搭乗員を処刑した罪に問われた。法で認められた「報復」であると証言すれば罪は軽減されただろうが、大量殺戮者の「処罰」は正当であると主張し、責任はすべて自分にあるという立場を岡田は貫く。感傷的な音楽と感情的なナレーションが、抑制の効いた演技との間に温度差を感じさせるのは演出の隙と言わざるを得ないが、理路整然と証言する岡田を小泉監督は殊更に謳い上げない。メディアは小泉堯史を師・黒澤明の継承という文脈で語りたがる。師弟関係というモチーフや緊張感みなぎるマルチカム撮影は、確かに黒澤映画を彷彿とさせる。だが、ギラついた全盛期の黒澤とは異なり、小泉は"鞘に収まった刀"のようだ。偉人を描いても、その超人性ではなく、気高い精神にこそにじり寄る。

法で白黒をつけるという裁判というシステムも、岡田の前ではプリミティブに思える。対立軸で捉える価値観を、彼の高潔な魂が融かすのだ。戦時下を冷静に捉えた明晰な言葉と、次世代の平和のために命を投げ出す姿は、「真善美」が失われた時代を生きる我々の無様な在りようを見つめ直させる。

清水節

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