プレステージ : 新作映画評論

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プレステージ

劇場公開日 2007年6月9日
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プレステージ 6月9日より日比谷スカラ座ほか全国東宝系にてロードショー

奇術師同士のマジック対決に哲学的な考察を付加

画像1(C) 2006 TOUCHSTONE PICTURES All rights reserved.

複雑な時間軸で観る者を翻弄するトリッキーな編集に脳味噌を刺激されながら、ようやく見えてくるのは、稀代の奇術師同士がいかにして鮮やかに人を欺くかというマジック対決。その筋書きに沿って見ていけば、双方のタネ明かしに誰もが息を呑み、一拍おいてリアクションは分かれるはずだ。おそらくそれは、何だって!? これはトンデモ映画だったのかと嘆息する声と、何てこった!本当の奇術師はクリストファー・ノーラン監督本人だったのかと唖然とする声。しかし、彼の逆回転映画「メメント」を時系列に追ってしまえば所詮2時間ドラマ程度の物語であり、そんな見方に意味はなかったように、本作もまた額面通りに受け取ってしまってはいけない。

いささか難解な言い回しをせざるを得ないが、これは叙情ではなく叙事の映画であり、人間や文化に関する哲学的な考察だろう。ノーランはこれまでに、執着心(「フォロウィング」)、記憶障害(「メメント」)、強迫観念(「インソムニア」)、変身願望(「バットマン・ビギンズ」)をモチーフに、ありきたりの映画体験から観客を解放し、一貫して人間の「身体」を“主役”として自我とは何かと問いながら、映画の可能性を駆使して見解を述べてきた。

20世紀前夜を舞台とする「プレステージ」のクライマックスは、瞬間移動のイリュージョンのタネをめぐって対照的な答えが披露される。ここでそれを明かすわけにはいかないが、移動先に予めそっくりさんをスタンバイさせておくことが常套手段だったこの奇術を更新させる“究極のタネ”は、SF的発想に基づいているとだけ言っておこう。それは明らかにウォシャウスキー兄弟が「マトリックス」の世界観のベースとした、思想家ボードリヤールの「シミュラークルとシミュレーション」における人間が技術を通して創り出したオリジナルとコピーの関係に関する論考を、奇術を通してプレゼンするかのよう。そしてノーランは、批評家ベンヤミンが「複製技術時代の芸術作品」で言及したアウラの理論を持ち出し、デジタルの進展で複製の見分けがつかなくなった現代のコピペ文化の非情さと虚しさを嘆き、今そこにしかない一回限りの存在の優位性を支持するのだ。

清水節

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(C)2006 TOUCHSTONE PICTURES All rights reserved.

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