うつせみ

劇場公開日:

うつせみ

解説

「魚と寝る女」「サマリア」のキム・ギドク監督が描く、寡黙な青年と人妻の奇妙な物語。チラシ配りをしながら空家を見つけては忍び込み、そこでしばらく過ごすという生活をしている青年が、ある家で夫に暴力を振るわれている人妻に出会う。2人はいっしょに逃避行に出るが、その先でも空家に忍び込み、やがてある空家で死体を見つけてしまう。04年のベネチア国際映画祭で監督賞、国際映画批評家同盟賞など4部門を受賞。

2004年製作/89分/韓国
原題:3-Iron
配給:ハピネット・ピクチャーズ、角川ヘラルド・ピクチャーズ
劇場公開日:2006年3月11日

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映画レビュー

4.0背後霊じゃないよ。

2019年10月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 謎の青年テソク。バイクで住宅街を走り、家の玄関にチラシを貼って去ってゆく。また戻ってきたかと思えば、チラシをはがしてない家の鍵をピッキングによって開け侵入する。金目のものには目もくれない。せいぜい冷蔵庫を開け、勝手に料理し、風呂に入り、ベッドで寝るだけだ。そして故障している家電製品を直し、住人の衣類の洗濯までしてしまう。

 冒頭から風変わりな行動をとる青年に引き込まれ、まったく台詞のない彼であっても純粋で孤独な心が手にとるようにわかる。SECOMの看板があってもなんのその。住居不法侵入であってもモノは盗まない。家人が居ても幽霊のような存在なのです。そんな彼が出くわしたのは、独占欲の強いDV気味の夫にうんざりしている人妻ソナ。孤独であり抜け殻のような生活を強いられる彼女とすぐに心が通じ合ったかのような雰囲気を見事な演出で描き出しています。

 原題は「3-IRON」。文字通りゴルフクラブの3番アイアンだけは盗んでしまった形となったが、もうひとつ盗んだのは人妻ソナの心。不法侵入する奇異な行動に同調して、何もかもが彼の行動パターンに重なり合うという新しい愛の形でもありました。なんといってもソナとテソクが二人とも足跡を辿るシーンが素晴らしかった。

 映像の美しさというよりも美しいまでの純粋さに心打たれましたが、ささやかな復讐やちょっとした事件まで無関心ではいられない。現実か夢かわからないといったテロップで締めくくられますけど、暴力によって残された傷跡だけは現実ですから・・・

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kossy

4.0胡蝶の夢

2017年4月20日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

 観終えた時、なんとも言えない浮遊感にとらわれ、しばらく抜け出すことが出来なかった。
 これはまるで、荘子の「胡蝶の夢」ような世界だ。 私が蝶になった夢を見ていたのか、蝶が私になった夢を見ているのか……。現実と夢の間をさ迷う、不思議な陶酔感が、この映画にはあるのだ。

 主人公の青年テソクは、留守宅に侵入し、住人が戻るまでその家で暮らすという、変わった行為を日々しながら生きている。ある日いつものように、閑静な住宅街の大きな一軒家に忍び込む。そこで過ごしている所を、住人の主婦ソナに見つかるが、彼女は騒いだり警察に届けたりすること無く、テソクが家で過ごす様を一部始終見守る。
 顔に殴られた傷を負ったソナを見て、テソクは彼女がおそらく夫から暴力を受けていること、そしてそれにより深い絶望を抱えていることを見抜く。次第に、二人は奇妙な心の交流を交わすようになる。
 だが、出張中だったソナの夫が家に戻り、家に上がり込んでいるテソクを通報しようとする。しかし、ソナに暴力をふるう夫に怒りを感じたテソクは、ゴルフボールで夫に傷を負わせ、バイクでソナと一緒に逃亡する。
 そして、孤独なテソクと行き場の無いソナは、今度は二人で留守宅を渡り歩く生活を始める……。

 テソクとソナ、二人の主役の間には全く交わされる言葉が無い(テソクに至っては映画中に一言も台詞が無い)という異様さ。 しかし台詞の代わりに、二人の間に情が芽生えていく過程を、二人の表情や仕草、目線や距離感などを繊細にカメラが捉え、雄弁に観客に語る。
 孤独な男女の魂が結び付き、愛が生まれる様子は、いびつなのに美しく、切ない。

 逃避行は長く続かず、二人はやがて引き裂かれる……。しかし、ソナの前に、テソクは不思議な形で再び姿を現すことになるのだが、その登場の仕方がこれまた奇妙。観ている者は、それが現実なのか夢なのか分からず混乱する。後半のテソクの存在は、実体があるのかないのか、まるで掴めない陽炎のよう。

 全体を通して、青みを帯びた画面の色合いが実に印象的。観賞後は、幽玄の世界をさ迷ってきたかのような、不思議な空気感が身体に残っていた。

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めい

2.0微笑みは誰のものか

2015年1月7日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

難しい

 主人公の青年は、他人の留守宅に侵入して、そこで食事、洗濯、壊れ物の修理を行う。まるでその家の住人であるかのように悠然と時間を過ごす彼に罪の意識はないように見える。
 実際、侵入先で何かを盗むわけではないし、くすねる物と言えば、冷蔵庫の中のありあわせの食材と電気や水くらいのものか。
そして彼が去ったあとに帰ってきた家主は大抵の場合、誰かが侵入したことには気付かずに生活を送る。
 彼には気配というものがない。映画の中でもこの男は言葉を発することはない。まるでこの世に存在することを拒むかのような人間である。誰にも見られたくないし、誰ともかかわり合いを持ちたくない。
 何らかの理由で、このような気持ちで生きている人びとのことを、我々は引きこもりと呼んでいる。ただし、この映画の主人公は、チラシ配りの仕事で自活しているのだが。

 このような彼がいつものように、とある豪邸に侵入して入浴や洗濯をしていると、家の中に先ほどからずっと住人がいたことに気付く。それはこの家の主人の妻であった。彼女の顔は夫から受けるDVの痕が生々しく残り、その表情は怯えて生気を失っている。
 ここで観客が気付かなければならないことは、気配を消していたのが侵入した男ではなく、この家に住む女の方であるということだ。そのことが、女の受けている暴力が陰惨で、逃れる術を知らない彼女がその存在を消してしまいたいと思っていることを強く印象付ける。キム・ギドク作品ではしばしば見られる、登場人物の優れた心理表現である。

 この二人は留守宅に侵入を繰り返す逃避行に出るのだが、ある時ついに侵入先の住人に見つかってしまう。男は収監され、女のほうは夫の元に連れ戻される。

 そして、続く収監中のシークエンスからキム・ギドク節は加速する。
 収監された男は、気配を消し相手の視角からも消える技術を研くのだ。

 観客はこのあたりから、自らの視覚に不安を覚えるのではなかろうか。自分が見ていると自覚しているもの以外にも存在している可能性に気付くのだ。
 視認されない存在から自らは見られているという不自由で気味の悪い状況は、思想家ミシェル・フーコーによる監獄での監視の、看守と囚人の関係をそっくり逆転したものではないか。

 刑期を終えた彼は再び女の家に侵入するのだが、その姿は女には見えるが夫には見えない。
 面白いのは、この夫が男の気配を感じながらもその姿を認めないところである。このような存在を我々はいくつもの物語で知っている。これはまさしく幽霊そのものではないだろうか。幽霊がいるかもしれないと感じたものは、怖いものを見たいような見たくないような気分である。
 女の微笑みは夫ではなくその後ろに立つ男へ向けられている。観客はここでまたしても不安にかられる。自分に向けられた顔に浮かぶ笑みは、果たして自分への微笑みなのだろうか。
 よくあるコメディのワンシーンに、通りの向こうから美女が微笑みながら手を振っている。いい気分になって、こちらからも手を振り返そうとすると、美女のお相手は自分の後ろにいたというパターンがある。
 この作品の最後のシークエンスはこれと同じ構図を持ちながら、笑い種ではなく、社会の片隅でひっそりと愛し合う二人の切なさと、その目には見えない存在を感じる男の焦燥感を表している。

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佐分 利信

2.5夢の中

2014年10月13日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

怖い

知的

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ミツマメ
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